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2011-11-14 06:52

野田、TPPと消費増税の二重苦に

杉浦 正章  政治評論家
 民主党政権は過去2年間にわたる「混迷」から、野田の環太平洋経済連携協定(TPP)参加表明で、ようやくにして「普通の政権」に戻った。政権担当能力のない者が行った、はちゃめちゃ政治からは脱却した。しかし、交渉参加で露呈した野田の政治手法は、誰がみても国会・国民無視の“逃げ”に徹しており、これでTPPより実質的には困難な消費税増税案を年末までの1か月半でまとめられるかに疑問符がつく。政策論議のTPPと異なり消費増税は「政局」になり得る要素を多分に秘めているからだ。TPPは、首相・野田佳彦が間接的に「関係国との協議に入る」と言おうが、何と言おうが、現実には交渉参加は決まったのであり、反対派は敗退したのだ。民主党内反対派もみんなの党以外の野党も負けたのだ。反対派の当面糊塗(こと)の発言の象徴が前農水相・山田正彦だ。往復びんたを食らったのに「ほっとしている」とは聞いてあきれる。「いわゆる事前協議ということでとどまってくれて、本当によかった」とも宣もうたが、ハワイでの野田発言を聞けば、事前協議とはほど遠い。オバマは「決断を歓迎」しているのであり、参加の正式意思表明と受け取っている。山田は自分が離党せずに済んで、ほっとしているのであり、反対運動が狸も参加した田舎芝居の側面があったことを物語るのだ。

 問題の核心は交渉への「参加」にあるのではない。交渉そのものにある。端的に言えば、野田が「コメの関税撤廃」で譲歩すれば、それこそ与野党そろっての猛反対の竜巻が生じて、政権は吹き飛ぶだろう。加えて、参加即締結とみるような反対論があるが、それほど国際社会は甘くはない。これから政権の「交渉力」そのものが試されるのだ。交渉力で言えば、ハワイで、野田はさっそく厳しい洗礼を受けた。前首相・菅直人ですらオブザーバーで招かれた、加盟国会合に招かれなかったのだ。まさに野田政権の交渉力に問題があることを冒頭から露呈した。さらに交渉は長期化不可避であり、前回も書いたように、野田政権で妥結が実現するかどうかも分からない。まず、交渉への参加には9か国の了承が必要であり、早くて来春となる。以後TPP加盟国は今後5回程度の交渉の上、来年末までの交渉妥結を予定している。この間米大統領選挙が来年11月に行われ、オバマが敗退すれば次の大統領がTPPを推進するかどうかも分からない。次の大統領が推進するとしても、日本のコメ、米国の砂糖など、難問は山積しており、順調にいっても2013年の妥結だろう。妥結事項は条約化され、10か国の批准手続きが必要だ。おそらく発効は2014年以降になる。

 この間日本の政局はというと、TPPが与野党対決の主軸として浮上したことは確かであろう。来年の通常国会での解散・総選挙を目指す自民、公明両党は、TPPを奇貨として、追い込みを図るだろう。自公とも基本的には時期尚早論だが、交渉内容次第では批准段階にまで対決を持ち越す可能性がある。衆院で過半数が確保出来れば、条約批准は成り立つが、確保出来るかどうかが焦点となる。これに加えて野田が、こともあろうにカンヌのG20で国際公約とした消費増税が待ったなしの追い打ちをかける。年末までにまとめて消費税増税準備法案を3月までに国会に提出しなければならない。野田にとって致命傷となり得るのは、カンヌの公約がTPPと全く同じで党内の論議を経ていないことだ。なぜなら6月の閣議合意事項は2015年までに引き上げるとするところを「2010年代半ば」とし、「経済状況の勘案」も織り込まれた上での玉虫色決定であるのだ。それも財務相・野田の主導で決まったもので、正式な閣議決定には至っていない。

 要するに、小沢一郎を中心とする原理主義的な消費税反対をそらすための窮余の一策であったのであり、政権内に存在する消費増税派と反対派の深層海流はいつ浮上して激突してもおかしくない状況になる。それが待ったなしで年末までに発生するのであり、政権は時限爆弾を抱えて、秒読みに入ったことになる。もっとも野田のTPPへの姿勢がまがりなりにも当初からぶれなかったことだけは、“逃げ”の政治手法とは別に評価されてしかるべきだろう。民主党政権は鳩山由紀夫と菅直人で失った“信用”をようやくにして回復しつつある。全く信用出来なかった政権が、やや息を吹き返した形にはなった。一方で自公両党は、共産党と十把一絡げの「何でも反対政党」に成り下がった。自民党総裁・谷垣禎一が「『アメリカのオバマ大統領の再選戦略に協力してくれ』というだけの話であれば、非常に危険だ」と批判の矛先をあらぬ方向に誘導しようとしているが、見当違いもも甚だしい。自民党は衰退著しい農村部の票が目当てだろうが、TPP支持層は都市部の浮動層に多く存在しており、これが離反することが分かっていない。小泉純一郎が総選挙に勝ったのも、都市部の浮動票を掘り起こしたからだ。自民党は大戦略を間違った。自公がTPP絶対反対を貫けば、確実に票を減らす。野田も消費税で民主党票を減らすから、どちらが歩留まりがいいかの戦いともなる。野田は帰国直後からTPPと消費税の二重苦の国会論議に巻き込まれる。
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