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2011-10-18 21:54

民主党政権は慰安婦問題で日本の法的立場と経緯を踏まえて対応せよ

平林 博  日本国際フォーラム副理事長
 韓国政府は日本政府に対し、またぞろ慰安婦問題を提起してきた。韓国憲法裁判所がさる8月、元慰安婦について「韓国政府が具体的措置を講じてこなかったのは違憲」との判断を下したからだろう。また、竹島問題、日本海呼称問題などにみられるような最近の対日攻勢の一環であろう。さらに、これまでの二代の民主党政権が、国益をしっかりと主張しない軟弱外交を行ってきたことと無関係ではないであろう。訪韓した前原誠司民主党政調会長は、金星煥外交通商大臣や記者団に対し、元慰安婦問題に関し「法的な立場はともかく、人道的観点から基金を考える余地がある」かのような発言をした由。しかし、この問題は「1965年の日韓基本条約で法的に決着済み」というのが、日本政府の一貫した立場であるのみならず、道義的にも、日本側からすれば誠意のある対応を行ってきたことを看過してはならない。

 日本政府は「法的に解決済み」との立場ではあるが、1991年からあらためて過去の文書や証言を含めて全力を挙げて調査をした。この結果は公表された。日本軍が強制連行した証拠は見つからなかったが、軍が関与したことは否定できなかったので、1993年の村山富市内閣時代、河野洋平官房長官談話にて「戦時中の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」として、道義的見地からお詫びと反省の気持ちを表明した。これを受けて1995年には、元慰安婦の方々に対する「償いの事業」を行うために、「女性のためのアジア平和国民基金」(通称アジア女性基金、以下「基金」)を発足させた。筆者は、村山内閣、次いで橋本龍太郎内閣で、内閣外政審議室長(現在の内閣官房副長官補)としてこの「基金」のための国民的な募金運動に奔走し、「償いの事業」の具体化に邁進した。「基金」は「日本政府のみならず、日本国民がみんなで反省と同情の気持ちを分かち合うべき」との見地から、国民的運動の形をとったのである。国民から広く浄財を集めたほか、経団連など財界や連合特に自治労などの労働界から特段の支援を頂いた。

 「お金だけでは誠意がない」と考えた日本政府と「基金」は、一人一人の元慰安婦の方々に対し、その尊厳・名誉の回復とお詫びのため、橋本首相からの誠意のこもった書状を添えた。日本政府と「基金」の努力の結果、フィリピン元慰安婦の方々のみならず、韓国でも相当数の方々が償い金を受け取った。もっとも、韓国の元慰安婦の方々は、周囲の声や圧力を気にしておられたので、ひっそりと受け取れるように配慮した。「基金」は、フィリピンの元慰安婦の方々への償い金の支給を終え、またインドネシアについては、先方政府の意向を尊重して、広く女性の高齢者たちの役に立つような施設の建設を行い、2006年に解散した。この間、中国政府は冷静に対応し、慰安婦問題を正面から取り上げることはなかった。
 
 しかし、韓国の一部の強硬な元慰安婦とその支援者たちは、あくまでも「法的な責任を認めたうえでの日本国家の賠償金でなければ、受け取れない」として、ひき続き日韓両国政府に圧力をかけ続け、今日に至っている。ソウルにある日本大使館の前で毎週水曜日に集まり、シュプレヒコールを上げ続けている人々は、その典型である。最近、彼らは、日本大使館の門前に「慰安婦の碑」なるものを建立しようとしている。韓国政府やソウル市は、どう対応するのであろうか?常識的には、外国大使館の門前にそのようなものを立てることを許すべきではないと思うが、最近の韓国の対日強硬姿勢を見ると、あながち杞憂とは言えない。本件は、元慰安婦の方々の名誉や尊厳にかかわる問題であるが、日本の法的立場や名誉・インテグリティーを損なってはならない問題でもある。政府も、与党民主党も、過去の経緯を踏まえ、十二分に注意して扱うべき問題と心得るべきである。

 
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