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2011-09-21 13:35

「離農奨励金」制度と「耕作放棄地」課税強化で農業を再生せよ

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 我が国の農業再生のカギは、農地の集約と規模拡大による競争力向上である。TPPに参加すると我が国の農業は壊滅するという議論があるが、今のままの農政を続けていれば、TPPと関係なく日本の農業は潰れる。農業改革を引きのばそうとすることこそ、日本の農業を壊滅に追い込む行為である。農林水産省は、高齢などの理由で農業を継続できなくなった農家が、別の農家に土地を売却したり、長期間にわたって貸したりする際に、交付金を支給するという形の「離農奨励金」制度を創設して、農地の集約と規模拡大を目指す方針である。9月13日には鹿野農相が、記者会見で、同制度の創設について2012年度予算の概算要求で検討している旨、表明している。そして、政府の「食と農林漁業の再生実現会議」が8月にまとめた中間提言に沿って、1戸あたりの平均耕作面積を、現在の約2ヘクタールから、今後5年間で、平地では20~30ヘクタール、山間地では10~20ヘクタールに拡大するという。この方向性自体は間違ってはいないと思う。

 「離農奨励金」の制度は、そもそも、2009年に当時の自公政権が導入しようとした制度である。しかし、同年の総選挙のマニフェストで民主党が戸別所得補償制度を農業政策の目玉として打ち出して政権交代を成し遂げ、沙汰やみになっていたのである。民主党の戸別所得補償制度は、バラマキ政策の最たるものであった。これが導入されたせいで、農地の集約化の妨げともなった。すなわち、法人の農業参入の一部解禁や、意欲のある農家への農地の賃貸が進みつつあったが、「戸別所得補償をもらえるなら」ということで、一部の農家が「貸し剥がし」に走ったのである。「離農奨励金」制度は、当然、戸別所得補償制度の見直しとセットであり、与野党協議の対象となる。導入されれば、民主党のマニフェストの重大な見直しがもう一つ増えることになる。

 「離農奨励金」制度は、それはそれでよいのだが、農地の集約を促進するためには、硬軟両様の政策をもってあたるべきである。「離農奨励金」は、いってみれば「太陽政策」である。しかし、「北風政策」も必要であろう。すなわち、耕作放棄地への宅地並み課税である。農地にかかる税金がなぜ安いかといえば、いうまでもなく、国民生活の基盤である食料生産に貢献しているからだが、それをやっていないのであれば、税金を軽減する理由が全くない。もちろん、減反政策を奨励してきたこれまでの経緯を考えれば、容易なことでないのは想像に難くないが、「耕作放棄地」への課税強化を実施すれば、「離農奨励金」と相俟って、農地集約がより一層進展すると思われる。是非とも、検討していただきたい。

 農地の集約・大規模化による競争力強化という具体策が動き出せば、TPPや各種自由貿易協定において、農業保護を理由とした反対論の論拠を失わせることになる。TPPは、開放性・自由・透明性・公平性の各原則に則ったアジア太平洋の経済連携及び発展の模索であり、その国際政治的意義は極めて大きい。その意味でも、「離農奨励金」の制度には、農業改革の端緒となってくれることを強く期待する。
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