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2011-09-20 07:28

復興増税が、きわどい争点に浮上

杉浦 正章  政治評論家
 鶴の一声ならぬ「どじょうの一声」で災害復興財源から消費税が除外され、10年間の所得増税が浮上した。言うまでもなく、消費税除外は小沢一郎の意向を強く反映したものだろう。今週から民主党税制調査会が本格審議を開始するが、被災地より自らの選挙区が大事の党内から猛反発は必至。同調査会会長・藤井裕久が、この難題をまとめられるかどうかが、最大の焦点だ。まとめられなければ、野党もそっぽを向く。首相・野田佳彦は、政権発足早々指導力を問われる場面に遭遇する。一体なぜ野田は、政府税調が復興財源として提示した3案のうち、まず真っ先に消費税を取り除いたかである。3案とは(1)法人減税の3年間の凍結と所得税の5~10年間の増税、(2)法人・所得税と、たばこ増税などの組み合わせ、(3)消費増税、の3案だが、答えは簡単だ。「政局化」を恐れたのだ。実は細川護煕が取り持った8月の小沢との秘密会談で、小沢は消費税導入に強くクギを刺していたといわれる。これに対して、野田も「すぐにはやらない」と答えて、小沢に“取り入った”のだ。こうした経緯があっては、消費増税を認めるわけにはいくまい。政権発足早々から「政局」になってしまうのだ。

 しかし、野田は、持論の消費税導入への絶好の機会を逸した。消費税は、さる6月に「2010年代半ばまでに段階的に10%まで引き上げる」ことを決めたが、野田政権がそこまで“長寿”を保つ可能性は、基盤の脆弱性から言ってゼロに等しい。導入するなら、大震災復興の目的税として消費税を導入して、その財源を確保した上で、福祉目的税に移行させるのが最良の方法であった。消費税1%は2兆5千億の税収が見込め、3%なら7兆5千億であり、復興増税の11.2兆円程度は、1年半で達成可能だ。ここは国民に正面切って消費税導入の必要を訴え、理解を得る選択をすべきところであった。それを所得税増税という、もっとも徴収しやすく、安易な選択をしたのでは、「逃げどじょう」の面目躍如といわれても仕方がない。国民は、所得増税の後数年を経ずして、またまた消費税増税のダブルパンチを受けることになる。おまけに経費削減を先行させると言いながら、何も手が着いていない。

 増大する一方の公務員給与2割カットが公約であるにもかかわらず、労組の圧力でやるにもやれない状況だ。一般勤労者の平均給与が下がっているのに、公務員給与だけは一般を額が大きく上回るのに、さらに上昇している。そんな馬鹿な状態を放置しての増税では、政権への不満は募るばかりだろう。また売却できる資産もまだある。国民新党幹事長・下地幹郎は9月14日、総務相・川端達夫に、復興財源に日本郵政株の売却収入をあてるよう求めている。売却収入は6.4兆円が見込まれており、早期に郵政改革法案の成立を図れば、可能となるではないか。復興増税の半分がまかなえる。新聞論調も、朝日を除いては厳しい。社説を見ると、朝日だけが 「私たちは、所得税と法人税を中心に検討するよう主張してきた。消費税は今後、膨張が避けられない社会保障費に充てるべきだと考えるからだ。野田首相の判断を支持したい」と支持を鮮明に打ち出した。しかし、他紙は、読売が「消費税を排除するのは問題だ」と真っ向から朝日と対峙。日経が「11.2兆円の規模が必要かどうかについては、再検証の余地がある」、産経「増税ありきではなく、冷静な議論が必要だ」とおしなべて疑問を呈している。

 こうした空気を反映して、民主党税調は、選挙区で追い詰められている若手議員らが猛反発をしており、藤井は先週もかなり袋叩きに遭っている。背景には、マニフェスト堅持派と修正派のきわどい路線対立がある。先の代表選挙でも野田以外の候補は、増税への慎重論が圧倒的であり、まず藤井の力量が試され、次いで野田の最終決断が迫られる事態になる可能性が強い。藤井は「大局的にものを見れば、分かるはずだ。私は最後の良識を信じている」と相変わらず大言壮語型の説得力のない発言をするにとどまっている。NHKの日曜討論でも「理路整然・意味不明」の発言ばかり繰り返していた。事態を収拾できるかどうかのメドは、全く立っていないのが実情だ。与党の国民新党も増税反対だ。民主党執行部は来週中にも党内の意見集約をしたうえで、「政府・民主三役会議」で了承を得たうえで、野党に協議を呼びかけたい考えだ。しかし野党はまずこうした与党内の意見集約を「お手並み拝見」の姿勢である。
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