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2011-09-06 07:27

頻繁な政権交代の根源を探る

杉浦 正章  政治評論家
 日本の首相が頻繁に交代することを米国務省報道官のヌーランドが笑った。不愉快に思った日本人も多いだろう。記者団から6月29日、「何人目か」と聞かれたのをジョークと受け取って、「何人目の首相になるの?」と同調、意図的に会場の笑いを誘ったものだ。筆者の経験から言えば、国務省の報道官は伝統的に記者団に弱く、時にはへつらうような対応をするが、今回もその類いだろう。翌日「米国は日本の政治的な不安定さがおかしいのか」と質されて、青くなって、「日本の政治プロセスを完全に尊重している」と釈明するオチがついた。ここはいきり立つより、朝日川柳のように<ダメ総理、代えてきたから、持った国>とジョークにはジョークで返すのが大人の対応だ。「ヤーイ、米国は不人気きわまりない大統領オバマを、代えたくても代えられないだろ」と混ぜっ返すくらいでいい。それにしても、5年で6人の交代は確かに多すぎる。ここでなぜこうなったかを分析しておく必要がある。

 頻繁な政権交代は安倍晋三から始まった。最大の原因は、自民党が参院選に敗北して、衆参がねじれたことにある。並みの神経の首相では、ねじれ対応は不可能だ。もっとも、自民党の安倍、福田康夫、麻生太郎の3代と、民主党の鳩山由紀夫、菅直人の場合は、本質的に異なる。自民党の政権交代は、財務相・中川昭一の泥酔会見が象徴する長期政権のたるみが、行き着くところまで行き着いたことにある。屋台骨が腐って、シロアリに食われて、ぼろぼろになったことが原因である。一方、民主党政権の場合は、まず2代続いた暗愚きわまりない首相のせいであろう。加えて民主党が敵失による勝利を間違えて、未熟な政治路線を強引に敷こうとしたことにある。その最たるものが「官僚敵視」の「政治主導」なる路線だ。普天間問題も、尖閣誤判断も、原発対応も「官僚無視で出来る」と見た甘さが根底にある。それでは、なぜ世界第3位の経済大国が、頻繁なトップリーダーの交代にもかかわらず、曲がりなりにも生き延びていられるかと言えば、理由は3つある。国民のガバナビリティ(被統治能力)と官僚制度の確かさ、そして天皇制である。

 被統治能力の例を挙げれば、世界が賞賛している大震災での冷静な対応だ。暴動一つ起きていない。日本人の精神尺度から言っても、国難の時に暴動が発生する方がおかしいのだ。そういう国民なのだ。官僚制度については、天下りなど負の側面ばかりにスポットが当たりがちだが、本質を見なければならない。日本の官僚は他の先進国のそれと比較しても、優秀さにおいてはトップクラスと言ってよい。実は、首相が代わろうが政権が交代しようが、官僚がしっかりしていれば、とりあえずは最低限生き延びられるのだ。大統領が替われば5万人の官僚が異動する米国では、こうはいくまい。その官僚を唾棄するように排除して、失敗したのが、鳩山と菅だ。排除して自分にカバーする能力があればよいが、無能では、ずっこけて当然だ。天皇制は言うまでもなく国民統合の象徴であり、万世一系で、米国のように大統領が4年や8年の“短期”で代わる国とは異なる。皇紀元年は神武天皇即位の紀元前660年だ。それはともかくとして、天皇が国民の象徴として安定的に存在していることは、国民の被統治能力とも精神的に絡んで、重要であろう。例えば、被災地を菅が見舞えば、陰で邪魔者扱いするが、天皇皇后両陛下の見舞いは感涙を伴う。憲法7条の国事行為にも、大統領の職務と似通った部分も存在する。

 このガバナビリティ、官僚、天皇がいまのところ機能しているからこそ、政治家が馬鹿をやっていられるのだ。もっとも、馬鹿をやっているのは、米国や英国の権謀術数渦巻く議会でも全く同じだ。元米国務副長官のリチャード・アーミテージが9月5日付け読売新聞の「地球を読む」で、「米国民は怒っている。ほとんど全ての政治家に愛想を尽かしている。政治家達は政敵のあら探しばかり。国のためになることは、ほとんど無頓着に見える」と嘆いているとおりだ。日本と酷似している。政治家とはそういうものなのだ。しかし、安心して、馬鹿をやってもらっていても困る。馬鹿も10年続けば、国の衰退を招く。ねじれの解消は出来ないまでも、震災対策のように最低限の与野党協調路線は当面維持されなければなるまい。また政権が頻繁に代わり、死に票の多い小選挙区制は、日本の政治風土にそぐわない。政治家も小粒になりすぎる。中選挙区制に戻すべきだ。米紙ワシントン・ポストは「ドジョウよ、おめでとう。だけど、長く続いてほしい」と長期政権への期待を表明する社説を掲載した。野田政権が長続きするかどうかは未知数だが、前が悪すぎたから得をしている。前2代と“逆張り”するのが生きる道だが、野田はそれをやっている。先に指摘した民主党政治の「自民党化」にも臆していない。 
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