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2011-08-04 10:00

国破れて山河は在るか?

鍋嶋 敬三  評論家
 日本の国運が衰勢に傾いている。民主党政権の下で内外のさまざまな指標が示すのは世界における日本の地位の低下である。「第二の経済大国」の地位を中国に明け渡しただけではない。鳩山由紀夫、菅直人両内閣の実績が政治、外交、経済など国際的に重きを置かれない方向へと日本を押しやってきた。端的な例が菅首相の「脱原発」発言である。東日本大震災の影響があったとはいえ、世界有数の原子力発電国である日本の首相の唐突な発言は日本への国際的な信頼感を落とした。産業の動脈である電力の供給が制約されれば、日本企業の国際競争力が落ちるのは日の目を見るより明らかだ。復興基本方針に必須の具体的な増税計画も示すことができなかった。選挙での敗北を恐れて財政規律の回復は放棄されたままである。今年は太平洋戦争に突入して70周年。民主党政権は今「第二の敗戦」への道をひた走っている。唐代の詩人・杜甫は「国破れて山河在り」とうたったが、21世紀の日本に国民が安心して暮らせる美しい山河は残っているだろうか?

 民主党政権は発足当初から首相の場当たり発言、閣内不一致、右顧左眄(うこさべん)、朝令暮改の批判がつきまとってきた。「政治主導」と言いながら党内対立が基本政策策定の足かせになり、国民の政治不信を生むもとになっている。根本的な理由は民主党の成り立ちが「反自民」を看板に教条主義的な旧社会党左派から自民党保守派まで雑多なグループの寄せ集めに過ぎないからだ。政治信条の上からも日米安全保障体制や原発、財政・税制で党内の意思統一がなされる構造ではない。それができるにはよほどカリスマ的な指導者が出現しなければなるまい。指導者が政治責任を取る体制を欠いたままでは、迅速を要する政策課題の目標設定、実行のプロセスでつまずき、政治が混迷を深めるのは当然の成り行きである。

 政(まつりごと)が乱れて苦しむのは国民である。政治の要諦は国家の安全と国民の安心を守ることである。鳩山元首相が自ら種をまき退陣に追い込まれた普天間基地移設問題は沖縄県民の不信感を増幅し日米信頼関係にひびを入れた結果、日本の外交力が低下、日米の離間を図る中国やロシア、北朝鮮の思うつぼとなった。米国や欧州の債務危機が進行する中で菅政権は日本の財政規律を守る姿勢を明確にするどころか、党内分裂を恐れて復興のための臨時増税も合意できなかった。菅首相の退陣を巡る党内駆け引きの所産である。

 杜甫の時代、国は滅びても美しい自然は残った。現代の日本は自民党政権から続く農政の混乱で国民の財産とも言うべき貴重な田畑は放棄され、国土の荒廃が進むのを政治が放置どころか助長さえしてきた。食料自給率40%と先進国で最低レベルの危機的状況が長年続く。農林畜産業、水産業も含め国際競争力のある第一次産業を立ち上げる戦略を示すのが政府の責務だが、この政権は国民を安心させる責任を果たしていない。「有徳に授(さず)くれば、則(すなわ)ち国は安し」(管子)。徳の備わっている人に位を授ければ国は安泰になる、という意味である。有徳の人士はいつ現れるのだろうか。
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