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2011-07-19 07:23

海江田が菅の“脱原発解散権”を封じた

杉浦 正章  政治評論家
 なでしこジャパンの快挙は、大震災で意気消沈の日本社会に、願ってもないカンフル注射となるだろう。「フジヤマのトビウオ」の異名で次々と世界記録を打ち立て、戦争直後の自信喪失の日本人に立ち直る勇気を与えた古橋廣之進を彷彿(ほうふつ)とさせる。いまや日本の“疫病神”となっている首相・菅直人が応援に駆けつけていたら、負けていたに違いない。その「菅降ろし」が、7月22日の第2次補正予算成立を受けて、下旬から8月にかけていよいよ佳境に入る。先頭を切って経産相・海江田万里が、菅の解散権を事実上封ずる動きに出た。「脱原発解散」の閣議書への署名拒否発言である。7月17日の海江田発言は、(1)現時点で「原発に賛成か、反対か」ということで民意を問うことに賛成ではない、(2)菅が「脱原発」を争点に衆議院を解散する場合は、解散を決める閣議書に署名できない、というものだ。海江田は既に辞意を表明しているが、「反菅路線」をさらに一歩進めたことになる。閣議書への署名拒否は、古くは「三木降ろし」の際に、田中角栄系の閣僚が解散をけん制するために拒否を言明して、三木武夫を「任期満了選挙」の敗北・退陣に追い込んだケースがある。最近では首相・小泉純一郎が2005年の郵政解散に当たって、閣議書の署名を拒否した農水相・島村宜伸の辞表を受理せず、島村を罷免、小泉自身が農水相を兼務して、閣議決定している。

 今回の場合は澎湃(ほうはい)と起きた菅退陣論を背景にしており、閣僚の間でも退陣論が公然と語られている最中である。退陣狙いで、三木のケースと似ている。海江田発言を皮切りに、今後閣僚は記者会見等で対応を問われるのは必至であり、賛否が割れるだろう。筆者の分析では、菅が解散を断行しようとした場合、署名に進んで賛成する閣僚の方が少ない。賛成は、ごますり発言を繰り返している防衛相・北沢俊美、法相・江田五月の2人くらいしかいないのではないか。これに対し、署名拒否の可能性が高いのは、海江田に加えて、「菅退陣」の「盟約」を結んだ「6人組」の国家戦略相・玄葉光一郎、官房長官・枝野幸男がまず挙げられる。次いで財務相・野田佳彦、農水相・鹿野道彦だ。野田も鹿野も菅にいま解散されては、民主党の大惨敗で、みすみす首相になれるチャンスを失うことになる。絶対反対にきまっている。与謝野馨も海江田と同一選挙区であり、民主党公認がないとなれば、議席喪失につながる。だから反対だろう。このように主要閣僚が皆反対すれば、伴食閣僚らは沈む泥舟に乗ろうとしないだろう。大半が署名拒否となる。

 それでも菅が解散をやろうとするなら、小泉同様、該当大臣を罷免し、首相自身が兼任するか、他の大臣に兼任させることで、閣議書を完成させるしかない。大ごとである。「狂気の解散で、民主党大敗北」と歴史に残るだけだ。従って解散封じに先鞭(せんべん)をつけた海江田の発言は、政治的には極めて重いものとなる。こうして菅は事実上「脱原発解散」を封じられたことになる。

 しかし、解散権を封じられるのと、首相の椅子にすがりつくのとは、別問題だ。あの知的で、大人しい元総務相・増田寛也がTBS時事放談で「閣僚が束になっても、引きずり下ろさねばならない」と述べたのには驚かされたが、引きずり下ろすのも容易ではない。水面下でどんな話が進行しているかだ。鳩山グループ幹部の中山義括がテレビで「我々は覚悟が出来ている。海江田さんとは『やるときは一緒だよ』ということになっている」と“きな臭い”発言をしている。読売によると、幹事長・岡田克也は周辺に「幹事長の仕事は7月末で終わりにしてほしい」と指示しているという。閣僚・党役員の連快(れんぺい)辞任でも考えているのではないかと思うが、やりきれるかどうか。いずれにしても菅との最終戦争が下旬からお盆前にかけて開始されるような気がする。
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