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2011-06-30 07:34

玄海原発再稼働で、電力危機に風穴

杉浦 正章  政治評論家
 日本全体の電力需給の鍵を握っているのが佐賀、福井両県の動向だったが、佐賀が原発再稼働に向けて動き始めた。玄海町長が玄海原発再稼働を了承、知事・古川康も容認に踏み切った。首相・菅直人による「浜岡停止」に端を発した電力危機に、突破口とまではいかないが、風穴が開いた形だ。しかし全国最多の13基を抱える福井県知事・西川一誠は、依然再稼働を認めない姿勢を堅持している。古川も「総理の考えも確かめたい」と述べており、ここは菅自らが説得に当たるべき所だが、延命のための「脱原発解散」を意識して、無責任にもほおかむりを極め込んでいる。菅は「滅私奉公」で最後に最大の課題に当たるべきだ。原発事故を受け、定期検査の終了予定を過ぎてもなお、営業運転再開を延期している原発が7基にのぼっており、さらに6基が近く定検に入る。運転再開できない状態が続けば、全国にある商用原子炉54基のうち42基が止まる事態に陥る。来年4月までには54基全部が止まり、日本の電源の4分の1が喪失する。

 「貧エネルギー社会」の危機に瀕しているのだ。こうした中で6月29日は、やや愁眉を開く展開があった。経済産業相・海江田万里に佐賀県知事が「安全性の確認はクリアした」と容認したのだ。加えて、東北電力、関西電力、中国電力など3つの電力会社の株主総会で、一部の株主から提案されていた脱原発議案が大差で否決されだのだ。世の中やみくもな反原発と脱原発のムードが横溢しているが、当面安全性を確保した上で原発に頼らざるを得ない事情を冷静に判断した結果となった。社民党党首・福島瑞穂が「運転再開に怒りを感じている。社民党は運転再開に立ちはだかり、脱原発でとことん戦っていきたい」と柳眉を逆立てているが、社民党と共産党が怒れば怒るほど、国家は安泰となる。もっとも玄海原発再開は、各地の原発の中でももともと再開に前向きであり、海江田が一番やりやすい場所を選んで再開を仕掛けた形だ。

 何と言っても、次の焦点は福井原発だ。知事の西川は再稼働について「夏場の電力不足も想定されるが、県民の安全性の確保を優先する」と述べ、依然再起動は認めない姿勢だ。西川は「国が示した緊急安全対策は津波対策に偏っている。地震の揺れの影響が検証されていない」と指摘している。とりわけ菅が浜岡原発停止で東海地震の危険性を強調して、停止に踏み切った結果、他の原発が動くに動けない状況に陥ったことへの不満が強く、菅が自ら説明することを求めている。他の知事の間にも、菅のパフォーマンスに対する感情論が横溢している。知事としても政治的リスクの極めて大きな選択となっているのだ。これに対して菅は、ドイツやイタリア、スイスの脱原発の動きに便乗して、パフォーマンス的にまだまだ未熟な再生可能エネルギーに傾斜しようとしている。しかし、世界30か国で約430基の原発が利用されており、脱原発の道を選んだ3国は全体の1割にすぎない。おまけに足りない電力は原発大国フランスから買えるのだ。大多数の原発保有国は原子力発電支持を変えていない。「エネルギーの安定供給なくして、国家の存続なし」を認識しているからである。

 加えて菅には、再生エネルギー買い取り法案を軸に「脱原発解散」という自己保身の思惑が先行している。しかし、ことは急を要する。電力需給のピークは2~3週間以内に到達する。既に最大電力使用量は限界に達している。依然として停電など電力危機の様相は消えていない。NHKによるとNTTデータは首都圏のサーバー数千台を関西に移転させる予定だったが、電力事情悪化を考慮して、海外移転の検討に入ったという。産業空洞化を象徴する基幹産業の動きである。既に何度も指摘したが、今首相としての最大の政策課題は電力危機対策であることは自明の理だ。小ざかしくも、保身にうつつを抜かしているときではない。いまほどリーダーシップを求められているときはない。トップリーダーが各県を回って知事らに頭を下げ、原発再開を訴えるべきではないか。菅にそれを求めるのは魚屋に大根をくれというようなものだが、あえて求めたい。さもなくば即刻退陣して、原発再稼働に動く首相に代わるべきだ。
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