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2011-06-25 19:37

やみくもな「原発即時全廃」論に反対する

伊藤 将憲  会社員・日本国際フォーラム個人正会員
 最近、原発の「即時全廃」を要求する声が広く日本社会を覆っている。「反原発」や「脱原発」のデモのニュースを目にする機会も多い。本音を言えば私自身も、危険な原発に頼らずに済むのならその方が有り難い。しかし、残された原発の稼働を即時にすべて停止した場合、日本社会は不足分の電力(全電力の約30%)を本当に補い切れるのだろうか?そして補いきれない場合には、日本経済はどうなり、国民生活はどうなるのだろうか。国内の原発は定期検査に入ったまま運転を再開できない状態がつづいており、このまま政府が無策で推移すれば、来春にも日本の原発54基はすべて稼働停止状態になるという。

 そしてそれを補う対策は政府で検討もされず、用意もされていない。ドイツのように隣国から電力を輸入することは不可能だし、石油や天然ガスは価格が急騰しているだけでなく、そもそもお金を出しても買えない(売ってもらえない)事態が想定される。そして当面、自然エネルギーは全電力の1%しか供給できない。日本の産業は大挙して国外へ脱出するしか生き残りの道がなくなるであろう。そうなれば、日本社会は終わりである。50年後、100年後のビジョンや方向性はもちろん大切だが、ここ2~3年間の日本の選択は、それ以上に決定的に重要である。

 6月24日付けの本欄で高峰康修氏が「震災復興・原発対策至上主義では、日本は破綻国家になる」と題して、震災復興と原発対策を優先するあまり「外交・安全保障」「経済」「社会保障」などの国の存立に関わるその他の諸問題が放棄されている現状に警告を発しておられたが、同感である。しかし、問題なのは、肝心の震災復興や原発対策それ自体においても、現状ではなすべきことがなされていないことである。菅首相は中部電力の浜岡原発の停止を命じたが、それが彼の信念であろうとなかろうと、どれほどの深謀遠慮を伴った判断であったのか。来年の春には答えが出るであろう。

 もとより福島原発事故のあとに、何事もなかったかのように旧来と同様の原発政策をとれるはずはない。「レベル7」に分類される(チェルノブイリ級と言われてもしようのない)原発事故が起きてしまった今、われわれはこの厳しい現実と向き合わざるを得ない。ただし、それはやみくもな「原発即時全廃」論であってはならない。今までの杜撰な管理を改め、原発の危険性を認識した上で、国民一人一人がしっかりと電力会社及び政府の活動を監視しながら、原発を運用すべきものである。しかし、かりに50~100年後には「原発全廃」を目指すとしても、今すぐに何の対策もなしに、「原発は危険だから即時全廃だ」というのでは、ついてゆけない。このままでは、2~3年以内に取り返しのつかないことになる可能性があまりにも大きいからだ。
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