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2011-05-20 07:35

朝日の参入で電子新聞戦国時代へ

杉浦 正章  政治評論家
 トップを切った産経新聞に引き続き、昨年4月に日経が、そして今年5月19日に朝日が、それぞれ電子新聞を発刊した。産経、日経は、新聞紙面をそのままパソコンで見られる一覧性が特色だが、「朝日デジタル」の場合は、横書きで編集し直し、紙面に準じた一覧性を確保している。早速契約したが、「新聞中の新聞」朝日の参入により、先行している米国に引き続き、日本も電子新聞時代に突入する。紙面の電子化とは、iPod、iPadなどの電子端末を通じて通勤電車でも紙面が読めることを意味し、実際に実に見やすい画面が提供されている。通信社やテレビのニュース報道にも影響を与えざるを得ない流れとなろう。情報を圧倒的に紙面でなく、パソコンから得ている筆者の場合、最近奇妙なことに気付いた。発足と同時に取っている日経電子新聞の縦書きの記事を、操作によって横書きに直して読んでいることに気付いたのだ。おそらくパソコンや電子端末からの情報収集に慣れている若い世代は同様の傾向ではないか。つまり同じ一覧性でも、朝日の手法が若い世代に受け入れやすいのだろう。恐らく朝日内部では新聞紙面をそのまま表示するか、横書きにするかで議論があったに違いないが、横書きは若者の新聞離れにストップをかける意味で有効な手段であろう。筆者は、読む気の起こらない長文の特集記事でも、電子版なら読む気が起きる。電子版の持つ不思議な特性だ。

 電子新聞の特色は、産経を除いて、欲しいニュースを収集して、提示する機能、検索機能、そしてスクラップ機能だ。朝日デジタルの場合、「MYキーワード」で必要な単語を入力しておけば、関連ニュースを全て集める。筆者の場合、「首相」「党」「議員」「院」「相」と設定しているが、これで政治記事のほとんど全てが瞬時に出せる。日経も「MY日経」があるが、朝日のようにピンポイントで取り出してくれない。不要な記事まで提示する。さらに重要なのは、検索機能である。日経はケチなことに月25件までの検索しか認めておらず、なんと超過分は1件当たり175円取られる。朝日の場合は、過去1年分の記事を無料で見られる。朝日は「朝日コム・パーフェクト」で月525円の契約をすれば、1件あたり84円で過去1年分を検索できるが、早速解約させて貰った。本紙との併読の場合、「デジタル」の料金は1000円だから、解約すればお釣りが来る。朝日は「社説」、「天声人語」の過去3か月分を別途315円で売っているが、検索では過去1年分がストレスなしに提示される。スクラップは記事の上をクリックするだけだ。

 問題は、無料で見られるニュースサイト asahi・comとの差別化だが、ニュース記事の場合は、時間も量もほとんど差が付けられていない。特集記事や解説記事が不要な読者ならasahi・comだけで十分だ。もっともその特集記事も「デジタル」は午前4時にならないと出さないのはおかしい。「社説」もasahi・comでは夜半から出しているのに、朝まで読めない。“逆差別”ではないか。日経は、書かれた記事は全てすぐに読める。ニュース記事に関しては、日経が無料サイトでは記事のリード部分だけしか見せないのとは対照的だ。朝日は無料サイトは広告で成り立っていることから、広告収入が減っては困るのだろうが、肝心のニュースで無差別なのは「デジタル」の読者獲得に影響することは避けられまい。ニュースの表示も、asahi・comでは一本で済むものを、デジタルでは分割していて読みにくい。たとえば、asahi・com では一本の首相会見詳報を、デジタルでは7本に分けて表示しており、操作が増えて面倒だ。社説まで2つに分割している。5月19日は「実質GDP3.7%減」の大ニュースがあったが、夕刊用最終本記が流れた時間を比較すると、日経が10時37分、朝日が10時43分、時事通信ドットコムが11時3分で通信社を新聞が凌駕している。新聞もデジタル時代に入って速報態勢が充実してきている。速報と言えば、日経には読者にニュース発生のフラッシュを送るメール・システムが付属しているが、朝日にはない。これは大きな欠陥だろう。電子新聞の特色はスピードを伴うことが不可欠である。日経は毎日20本近く速報しており、どこにいてもニュースを知ることができる。産経は月額料金が315円と格安なのが取りえだ。4000円の日経よりは紙面が見やすい。

 この朝日の電子化は、新聞の宅配システムにも大きな影響を及ぼすだろう。北海道で4000円かけてペイしない宅配をしている朝日が、読者に電子新聞購読を呼びかければ、まるまる月額購読料3800円の中に占める配達料がなくなる。産経や日経のように完全な全国紙とは言い切れないケースでは、電子新聞が比較的容易に成り立つが、朝日、読売の場合は宅配を成り立たせてきた販売店との関係も微妙なものになるだろう。「販売店なくして、新聞なし」の時代が変わろうとしている。それにしても読売や毎日はのんびりしている。「まだか」と言いたい。加えて、地方紙や通信社の在り方にも影響が必至だ。地方紙は既に朝日や読売から配信を受けているケースがあるが、全国どこでも良質な紙面が見られる時代となれば、発行部数にも影響するだろう。一方で、朝日が電子新聞の記事を地方紙に売り込めば、共同、時事の領域はますます狭められる。共同と時事は、日経が速報に参入して三つどもえの速報合戦を展開しているが、そろそろ合併して一つの強力な通信社を作るべき時ではないか。終戦直後の同盟通信弱体化を狙ったマッカーサー司令部の方針を唯々諾々として維持している時でもあるまい。分裂する際両社首脳は「4~5年たったらまた合併しよう」と誓い合ったではないか。民放テレビも、浅薄なコメンテーターによる論評、分析が、朝日に先行されては形無しだ。
 


 
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