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2011-05-09 23:00

「テロとの戦い」におけるソフトパワーの重要性

水口 章  敬愛大学国際学部教授
 5月4日付『アハラム』紙は、「伝説の終わり」という記事を掲載し、「ビン・ラディンの死はアルカイダの終わりの始まりとなるだろう」と指摘した。その理由として、(1)アルカイダ内で No.2 のザワヒリ容疑者の評価が分かれていること、(2)サウジアラビアから流れた資金が保証されなくなること、(3)中東地域の市民デモ活動が成功していることを挙げている。この指摘は、アルカイダの中核部分に関する動向分析という点では、的を射ているといえる。しかし、アルカイダと連携しているグループおよびアルカイダのイデオロギーの影響を受けたグループによるジハード(聖戦)運動は、依然としてテロを行う能力を有している点への評価が少々甘いのではないかとの感がある。ジハード戦士によるテロ攻撃は、時として攻撃を受けた国のみでなく国際経済にも致命的なダメージを与える脅威であることに変わりはない。

 さて、このジハード戦士たちは、必ずしも同じ目的意識で活動しているわけではない。例えば、ジハード運動は、イスラム教徒の「国家を防衛する」ことと考える者もいれば、背教者の「政権を打倒する」ことを目的とする者もいる。しかし、彼らは共通の認識を持っている。それは、(1)イスラム教徒の意識連帯によって形成されている共同体(ウンマ)の重視する点、(2)そのことから、世界は、イスラム世界と非イスラム世界の2つに分かれていると認識する点、(3)世界を2分して見ることから、しばしば「敵か、味方か」との区別をする点である。この共通の「敵」との戦いという共感性が、ジハード戦士を生み出し、彼らのネットワークを広げているといえる。

 これに対し、米国は、1983年から「反テロ支援プログラム」(Antiterrorism Assistance program)を議会で承認し、141か国(4万8000人を超える)の治安関係者への訓練、支援や対策教育プログラムの開発などを行っている。テロとの戦いは、ブッシュ大統領時代に、2001年10月からのアフガニスタン、2003年3月からのイラクへの武力行使が開始されたため、軍事的側面に注目が集まってきた。しかし、実際には(1)テロ資金の提供抑止・防止、(2)国境管理の改善、(3)情報の共有、(4)法執行における協力の許可、(5)テロリストのリクルートの抑止、(6)テロリストの避難場所をつくらせないなどの努力が、国際協調のもとで行われており、こうしたことが効果を上げてきた。

 今後も続くであろうジハード戦士との「テロとの戦い」は、これらの分野に加え、反米・反西洋の感情を持つ国民が多数存在する国に対し、関係諸国がソフトパワーを駆使して、パブリック・ディプロマシーを展開することも重要だろう。「テロとの戦い」では、ハードパワーを使用せねばならない事態をできるだけ招かないために、そうした地道な努力を続けねばならない。
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