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2011-04-11 23:30

原発は必要だが、その安全性の万全を期するためには

平林 博  公益財団法人日印協会理事長
 福島第1原発の事故により、原発への反対論が勢いづいているが、他方、原発は必要だとの前提でフル・プルーフの事故防止強化策の導入を唱える見解も根強い。「原子力平和利用の廃止が核不拡散に及ぼす悪影響」と題する4月11日付け本欄への河村洋氏のの論考(No.1926)も、「原子力平和利用への支援が核兵器拡散への歯止めとなっている」との観点から、原発の必要性に理解を示したものと解釈するが、興味深い見方である。筆者も、化石燃料及び太陽光その他の再生可能エネルギーだけでは、人類の増大する電力需要を満たすことはできないと考える。地球温暖化対策の観点からも、原発は避けて通れない。遠い将来ではあるが、期待できるのは、太陽などの恒星のエネルギー源である熱核融合エネルギーの地上での再現である。放射能を放出せず、原料(海水からとれる重水素など)が無限にある熱核融合エネルギーを実現するべく、現在、日本をはじめとして米国、EU、ロシア、中国、韓国およびインドの7極で、熱核融合実験炉計画(ITER)を推進中である(本部は南仏のカダラシュ、機構のトップの機構長は二代続いて日本人。現在は、本島修元核融合科学研究所長)。しかし、実現には数十年はかかると予想されているので、それまでの間は、世界は原子力発電なしには済ますことはできないであろう。ただし、福島第1原発事故が示したように、ありとあらゆる事態に事故を防止できる「フル・プルーフの原発安全強化策」を講じることが前提である。そのことを指摘した上で、河村論文には下記の過誤があることを指摘させていただきい。

1.「日本が、最終的に諸外国に倣ってインドとの核協定を結んだことは注目に値する」と論じているが、日印原子力平和利用協力協定の締結交渉は、昨年から今年にかけて計3回行われたものの、インドが核実験を行った場合に日本は協力を停止するかどうか等について、見解が収斂せず、締結までにはまだ乗り越えるべき争点がある。

2.「日立、東芝、日本製鋼所といった日本企業は原子炉建設でジェネラル・エレクトリックやアレバの下請けになっている」と論じているが、日本製鋼所は、その特に優れた原子炉容器製造技術のゆえに、内外の原子力企業から注文を受けているので、「下請け」と言えないこともないが、日立や東芝が外国企業の「下請け」になっている事実はない。日立とジェネラル・エレクトリックは相補うパートナーであり、東芝に至っては米国ウエスティングハウス社の株式を100%所有するその親会社である。日立、東芝ともにアレバとは、よきライバルであり、これまた「下請け」などではない。なお、三菱重工は、アレバのパートナーだが、勿論「下請け」などではない。

3.「技術支援を供与をする国は、顧客の国がNPT体制に加盟していなくても、査察を要求することができる」と指摘されているが、そもそも、NPTに加盟していない国には、国際社会は協力できないというのが、原子力供給グループ(NSG、原子力関連資機材や技術の輸出規制を行うための46カ国グループ)の合意である。インドの場合には、核拡散などの恐れはないとして、NSGは例外的に特別の決議を採択して、協力についてゴーサインを出したが、インドが少なくとも民生用原子炉については「IAEAの査察を受け入れる」ことを条件とした。米国も、その他の国も、インドとIAEAの保障措置協定の締結を見極めたうえで、インドとの原子力協力協定締結に踏み切ったのであった。なお、インドは例外であり、NPTに参加していないパキスタンやイスラエルに対しては、仮に希望が出されても、NSGはノーということは確実である。

4.最後に米印原子力協定につき、「技術支援の見返りに、インドは核実験の停止を受け入れた」と論じているが、これも正確ではない。インドは、1998年5月に核実験を行った直後から「将来核実験を行わない」とのモラトリアム宣言を行ってきたが、これはインド政府による一方的な政治的宣言である。米印原子力協定や付属文書においても、インドは、核実験の停止を「法的に」約束することを拒否した。将来、インドが仮に核実験を行った場合には、米印協定では規定がないので、米国は米国の国内法によって一方的に対印原子力協力を停止することができるように立法措置を講じた。米印双方の立場の相違を乗り越えるための妥協的知恵ともいうべき解決策である。わが国がインドと原子力協力協定を締結する場合にも、似たような工夫をする必要があると思われる。
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