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2011-03-21 10:55

(連載)アメリカは「中東民主化」をどのように支援すべきか?(3)

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 アラブ諸国で親欧米政権が崩壊する中でイランが力の真空を埋めると主張する識者もいるが、カーネギー国際平和財団のカリム・サドジャプール研究員は逆の議論を展開している。すなわち「民主化したエジプトが再台頭してくれば、イランの相対的な力は低下する。また、イランもエジプトやチュニジアと同様に圧政と経済悪化という問題を抱えている。さらにイラクとバーレーンのシーア派アラブ人は、イランに親近感を抱いていない。アラブの政治変動は、グリーン運動に立ち上がったイランの若年層に刺激を与える可能性はきわめて高い」と。

 最後に、アラブ世界の動向の大局観とこの地域の民主化推進の指針を模索したい。マルワン・ムアシェル氏は欧米に対して「政治改革を経済自由化より優先せよ」と主張しているが、それは権力分立のない市場経済は、支配階級に富をもたらして、社会経済的な不公平を拡大してきただけだったからである。また、ムアシェル氏は「抵抗運動の拡大の担い手は、専制政治に反感を抱く一般市民であって、時代遅れの神権政治に固執するイスラム宗教勢力ではない」という重要な事実に注目を呼びかけている。そうなると圧政体制との妥協は無意味になる。

 現在のアラブ民主化を「ベルリンの壁」崩壊になぞらえる専門家に対し、カーネギー国際平和財団のトマス・カロザース副所長は注意深い論評をしている。「冷戦期の中央および東ヨーロッパが共産主義体制一色だったのに対し、アラブ諸国は改革派王政、保守派王政、専制共和政、部族国家、統治不全国家、石油産出国、そして水資源欠乏国など、多様性に満ちている。またアラブの指導者達は中・東欧諸国よりも西側に依存してはいない。だからと言って、アラブの民主化が困難なわけではなく、アラブの活動家達は海外の成功経験を貪欲に学ぼうとしている。イスラム宗教勢力は組織化が進んでいるかも知れないが、多数派を形成するには浮動票も獲得しなければならない。きわめて重要なことに、アラブ世界のイスラム宗教勢力は複数政党体制の枠内で活動しようとしている」と、カロザース氏は指摘する。

 中東の民主化への道はそれほど単純ではない。湾岸王政諸国は西側にとって重要な同盟国で、あせらず着実なアプローチが必要である。アプローチは国ごとに違ってくる。思い切った介入が必要な場合もあり、オバマ政権はついにリビア問題でフランスとイギリスへの支持に踏み切った。他方で、バーレーン情勢への対応は難しくなっている。9・11よりアメリカの重要政策課題となった中東の民主化は、今こそその成否が問われている。(おわり)
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