国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2011-03-19 12:39

(連載)アメリカは「中東民主化」をどのように支援すべきか?(1)

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 今、日本国民は地震で頭がいっぱいだが、その間にも世界は動いている。我が身の不幸ばかり嘆いてはいられない。震災被害者の冥福を祈ると共に、これからの世界について論じてゆきたい。去る3月5日よりの連続投稿で述べたように、中東での反政府運動の台頭は、この地域でのアメリカの影響力の低下を意味しない。むしろ、アフガン戦争とイラク戦争の勃発以来の長年にわたってアメリカが追求してきた「中東民主化」というアメリカン・ドリームが実現されつつある。アメリカは中東の政治変動に対してどのように関与すべきだろうか?今回は、エジプト、リビア、イランの主要3ヶ国について、私見を述べてみたい。

 チュニジアとエジプトの「革命」に刺激された民衆の運動の広まりは、晴天の霹靂ではない。カーネギー国際平和財団のマリーナ・オッタウェイ氏とアムル・ハムザウィ氏の共同論文では「チュニジアで始まった抵抗運動は特に目新しいものでなく、アラブ世界に広く潜在していた大衆の欲求が劇的に表れたに過ぎない」と記されている。エジプトで政治および経済の改革を求める市民運動は、前世紀の終わり頃より見られ、イラク戦争が勃発した2003年より民主化の要求は強まっていった。チュニジア、アルジェリア、モロッコといった他のアラブ諸国でも同様の傾向が見られる。オッタウェイ氏とハムザウィ氏は、アラブ世界の政治社会運動について深く切り込んだ分析を行ない、「若者による運動は、組織基盤が整備されていなくても、急速に広がる」と述べている。従来からの労働組合や左翼運度の活動家達は「ソーシャル・メディア頼みの運動は長続きしない」と主張するが、チュニジアでのフェイスブック革命がアラブ諸国民を勇気づけたことは間違いない。

 ヨルダンのマルワン・ムアシェル元外相は、さらに踏み込んで、アラブの改革に必要なステップとして、「アラブ諸国の市民は、もはや政府を信用していないので、いかなる改革もリップ・サービスに終わってはならない。公正な選挙、強力な議会、権力の分立、そして教育の改革が必要である。政治改革が行なわれなければ、経済の自由化も社会の不公平を拡大するだけだ」と指摘している。ムアシェル氏は、上記の改革を強力に推し進め、既得権益層の厳しい反対を押し切ることを主張している。

 エジプトに関しては、ベイルートのカーネギー中東センターのアムル・ハムザウィ所長がマルワン・ムアシェル氏と同様な点を主張している。それは、戒厳令の解除と市民の自由の保護である。ハムザウィ氏はさらに、政治犯の釈放も勧告している。欧米の論客の中には、イスラム宗教勢力の危険性を説く者もいるが、オランダのアヤーン・ヒルシ・アリ元下院議員は「エジプトのムスリム同胞団はかつて暴力的だったが、今では現実に適応する能力がある」と言う。自らの選挙経験を踏まえて、アリ氏は「政党は社会階級、宗教、そして時には政治思想を問わず、できるだけ多くの地域社会に根ざす必要がある」と指摘する。よって欧米の政策形成者達は、イスラム宗教勢力が台頭するかどうかよりも、エジプトで透明性と説明責任が保たれた統治が行なわれるかどうかを、注目すべきなのである。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム