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2011-03-11 07:15

メア発言、早期決着で迫られる同盟深化

杉浦 正章  政治評論家
 異例のスピードで米政府がメア日本部長を更迭した背景は、あらゆるオプションの中でメア発言が米国の極東戦略とミスマッチの暴走発言であるからだ。日本との同盟関係を毀損しては、中国の台頭と北朝鮮へのけん制に対処できないことは火を見るよりも明らかであり、早期決着はホワイトハウスも絡んだ必然の選択であった。これはとりもなおさず、普天間早期決着、思いやり予算の早期国会成立など日米同盟関係の修復に向けて、日本政府の“退路”を断ったことになる。折から11日朝、首相・菅直人への“在日献金”が報ぜられ、菅政権は“風前の灯”となった。しかし誰が首相であろうとも、メア発言を口実に問題の遅延をはかることは許されなくなった。ロシア大統領・メドベージェフが北方領土を視察するまで、同大統領の「視察はない」と言い続けたどこかの国のロシア大使と違って、米大使館、とりわけ大使ジョン・ルースの対応は鮮やかだった。3月6日に発覚してからまる5日間で、事実上の決着にこぎ着けた。問題を見極めるルースの洞察力と行動力はさすがである。訪沖も即断で決めた。ルースは大統領選挙では、バラク・オバマ陣営の資金調達を担い、オバマとは電話で話せる関係にある。その関係を最大限に生かしたに違いない。

 経緯を見ると、国務次官補キャンベルが日本時間8日夜ワシントン郊外のダレス国際空港で記者団に対し、「報道がもたらした誤解について個人的に陳謝したい」と述べた時点では、国務省は明らかに問題を過小評価していた。「個人的陳謝」で済むはずがない。ところが成田に降り立ったとたんにキャンベルは、「米国を代表して心から陳謝したい」と一転して公式謝罪に変わった。この間に何があったかだが、筆者は米大使館の動きとみる。日本政府の抗議を受けたルース大使が、ホワイトハウスに直接働きかけて、場合によっては大統領に直接電話して、事態の重大さを認識させたのであろう。これを裏付けるように、産経新聞のワシントン特派員だけが「日米外交筋が『メア氏更迭を日本側に伝えるようホワイトハウスから指示を受けたようだ』と語った」と報じている。日米外交筋とは、まず報道の慣例から言って駐米日本大使館の首脳だろう。

 ホワイトハウスから直接国務省に「メア更迭」の指示がいったのであろう。そもそもキャンベルの訪日の主目的の一つに、日本の思いやり予算の国会通過見通しの掌握と、そのテコ入れがあったとされている。しかし、先に筆者が米政府の“本音”と指摘したように、メアは「もし日本の憲法が変わると、米国は国益を増進するために日本の土地を使うことができなくなってしまう。日本政府が現在払っている高額の米軍駐留経費負担(おもいやり予算)は米国に利益をもたらしている。米国は日本で非常に得な取り引きをしている」と口走ってしまったのだ。まさに、キャンベルがやろうとしていた課題をメアがぶちこわしたのだ。キャンベルは思いやり予算どころか、メア発言の火消しに全精力を傾注せざるを得なくなったのであろう。以後、メアの更迭、キャンベルの公式謝罪、ルースの沖縄訪問と立て続けに打った手は、大勢において正確で的を射たものであった。官房長官・枝野幸男も「迅速な対応を取っていただいた。米政府が日米関係を重視し、今回報道されたことが米政府の考え方とまったく違っている、という思いの表れと受け止めている」と納得するに至った。もちろん沖縄県知事・仲井真弘多が「問題は県民の感情論となっており、信頼関係が元に戻るのには時間がかかる」と述べているとおり、発言の与えた打撃は大きい。

 ただでさえ前首相・鳩山由紀夫の「海兵隊抑止力は方便」発言で困難になっている普天間移設が、より大きな暗礁に乗り上げたことは間違いない。こういうケースでは政治家は、発言を政治的に利用して問題遅延の理由としたがるものだが、米政府の即断即決による対応は、いかに日米同盟深化に向けての米側の思いが真剣であるかを物語っている。普天間移設、海兵隊のグアム移転、嘉手納以南の基地返還の3点一括合意は履行されなければならない。政府は普天間問題に加えて、日米の共通戦略目標を打ち出す外務・防衛閣僚による安全保障閣僚会議(2プラス2)の5月実施を何が何でも実現すべきだ。しかし、3月11日の朝日のトップ報道によれば、菅の資金管理団体が、2006年と09年に、在日韓国人系金融機関の元理事から計104万円の献金を受けていたことが、同紙の調査でわかったという。大スクープである可能性が強い。献金を受けていたのは、菅首相の資金管理団体「草志会」(東京都武蔵野市)である。同団体の政治資金収支報告書によると、旧横浜商銀信用組合(現中央商銀信用組合)の元理事の横浜市内の男性(58)から民主党代表代行だった06年9月に100万円、09年3月に2万円、同8月に1万円、政権交代後の副総理兼国家戦略担当相だった同11月に1万円の計104万円の献金を受け取っていた。「前原辞任」と全くおなじケースであり、本当なら退陣を迫られる。誰が首相になるかは分からないが、オバマとの6月の日米首脳会談も実現させ、同盟の深化へとつなげるべきであろう。
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