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2011-03-10 18:08

ポスト京都議定書での「未達成罰則なし」の方針を支持する

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 今年末に南アフリカで気候変動枠組み条約第17回締約国会議(COP17)が開催され、ポスト京都議定書、すなわち2013年以降の温室効果ガス削減の新枠組み作りを目指すことになっている。環境省は、COP17に臨むにあたって、新しい枠組みにおいては、京都議定書とは異なり、削減目標を達成できなかった場合において罰則を設けないよう求める方針である。これは、全く適切であると評価できる。

 京都議定書では、締約国が2008年から2012年までの約束期間に削減目標を達成できなかった場合、超過排出量の1.3倍を次の約束期間の削減義務に上乗せするという罰則がある。この規定は、締約国に温室効果ガス削減を動機づける一方、地球環境条約の一般原則とは正反対の考え方である。地球環境条約においては、地球環境の保護は国際社会の一般利益であり、締約国は、その実現のために敢えて何らかの義務を負うのであるから、仮に不履行があったとしても、それは締約国の意思ではなく、外部的な要因があったからに違いない、と見なすのが建て前である。そして、その外部的要因を除去することが遵守促進に繋がるとして、制裁ではなく、是正勧告などによる遵守促進を行う。一方、非締約国については、国際社会の一般利益である地球環境の保全に背を向けておきながら、良好な地球環境を享受するフリーライダーであるとして、制裁や強制の対象になる。例えば、オゾン層の保護に関するモントリオール議定書では、非締約国に対する貿易制裁が規定されている。

 また、京都議定書の枠組みに取り入れられた罰則は、そもそも京都議定書自身に反している。未達成の場合に次期約束期間の削減義務に未達成分の1.3倍を上乗せするというのは、京都議定書には元々なかったものである。京都議定書第18条では、拘束力のある措置、すなわち、新たな追加的義務を課すためには、京都議定書の改正によらなければならない、と規定している。したがって、京都議定書の改正をせずに、未達成時の罰則を導入したことは、手続き上重大な瑕疵がある。このことは、COP17では、強く問題提起する必要があろう。

 また、環境省は、罰則をポスト京都議定書の枠組みにおいて維持したならば、各国が積極的な目標を掲げることが困難となり、かえって全地球的な温室効果ガス削減は進まなくなる恐れがあるとしている。そして、罰則は設けず、まず各国が高い削減目標を設定し、定期的検証と説明責任を課する、というスタイルを考えているようである。これは、現実的であり、先に述べた地球環境条約の一般原則にも合致したやりかたである。さらに、この考えに基づけば、民主党政権が無謀にも掲げてしまった1990年比25%削減という目標が、義務の度合いとして多少緩やかなものとなる可能性がある。環境省の今後の制度設計と交渉に期待したい。
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