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2011-03-03 15:16

中国において「革命のための独裁」は許されるか

吉田 重信  中国研究家
 現下の中東で発生している一連の事態は、それが民主化を求める民衆の動きとこれに抵抗する独裁者の間のせめぎ合いであることを示している。また、この動きは、世界のほかの地域にも広範に波及しつつある。このような潮流の中で、原理的問題として提起されているのは、リビアのカダフィ「大佐」がはからずも露呈した、「大義のための独裁」という考え方の妥当性いかんである。同じような考え方を方便として使って、独裁体制を堅持している政権は、世界中に十指にあまるほどある。米国が打倒した、かつてのイラクのフセイン政権がそうであった。現在では、中東地域についで、アジア地域においても、世界最大級の独裁国家である中国をはじめとして、ミャンマー、北朝鮮などの例がある。むしろ、中国こそは、あらゆる束縛から人間を解放するという「革命」を標榜しながら、それをいつの間にか「革命のための独裁」という論理にすり替えて、国家を「強権抑圧装置」にしてしまった例である。

 したがって、中国の一党独裁体制は、ほかの途上諸国が政治体制を選択する際の、いわばひとつの「モデル」になっているといえる。近年、中国が似たような体質をもつミャンマーや北朝鮮の政権と緊密な関係を維持し、さらにはこれらの政権を支援しているのは、故なしとしないのである。はたして中国政権は、中東での民主化への動きが中国国内に波及することを恐れ、これを阻止するため、懸命になって民衆への抑圧ないし管理措置を強化している。指導者たちが戦々恐々としているさまがうかがわれる。しかしながら、目下中国で散発的に表面化しつつある民主化デモの動きが、今後短期間のうちに全国的な規模に発展して、政権を崩壊させるというシナリオは、予測し難い。なぜなら、現在の中国政権には、カダフィ「大佐」のような「独裁者」のシンボルとなるような「悪玉」が存在しないし、中国の政権は民衆を支配、管理する手法において、中東のいかなる政権よりも長けているからである。

 他方、これに対する民衆の力は、組織や動員数のうえで脆弱であり、また、過去に二度にわたって天安門事件などで失敗した経験もあって、臆病になっており、十分な勝ち目がないかぎり、過激な行動を起こす可能性は少ない。さらに、中国社会には富裕化現象にともなって、一党独裁体制を支える特権階級のみならず、中産階級層、すなわち相当数の既得権益層が形成されている。この結果、中国の民主化への動きは、今後さらに10年ないし20年の時間にわたり徐々に進行していくだろうが、その帰趨は目下のところ不明である。他方、もっと注目すべき動向は、以下のような台湾の動向である。最近、台湾の馬英九総統(国民党)と蔡英文民進党主席は、偶然であろうが、示し合わせたかのように、中東の動きに関連して、「中国の民主化の進展を希望する」との声明を発表した。筆者の友人である台湾人からの報告によれば、台湾では民衆のみならず、国民党や民進党の政党レベルにおいても、中東の民主化の動きを歓迎しているとされている。

 その背景には、中東の動きが中国内の民主化を促進させ、その結果として、中台交渉にあたっての台湾側の立場を強化だろう、との台湾住民の期待があるとみられる。このような台湾側の期待には、歴史的な背景がある。すなわち、かつて国民党と共産党は、三度も「国共合作」を行い、提携して「中国革命」を遂行することになっていた。ところが、国民党は共産党に敗れて、台湾に退き、他方、中国大陸を統治した共産党は、「大陸の統一」を成就したとはいえ、いまだにその本来の「革命」の目標であった「台湾統一」および「民主主義革命」を成就していない。これに対し、台湾においては、国民党と民進党が「民主主義革命」をまがりなりにも達成し、議会制二大政党政治へ移行しているという実績がある。

 いずれにしても、今後進展していくと予想される中台交渉において、「民主化革命」をまがりなりにも達成した台湾と、いまだ達成していない中国が、今後いかに和解、統一の道を探っていくか、あるいは、台湾が広範な自治権を得て、中国全体としてはゆるやかな「連邦制」に移行するのか、が問題の焦点であろう。また、このような中台関係の今後の推移は、ユーラシア大陸の中枢部に位置するチベット自治区や新疆ウイグル自治区、あるいは内モンゴル自治区の「自治制度」のあり方にも波及するであろう。なお、ロシア革命後70年間足らず存続したソ連邦はすでに崩壊した。その原因は、欧米諸国による「封じ込め政策」の成果によるものであるとともに、ソ連が内部に抱えていた「民族問題」と「宗教問題」によって「自己崩壊」したものとみられている。中国の場合は、どうなるのであろうか、注目される。
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