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2011-01-14 07:53

与謝野・枝野人事が政権の火種となるのは必至

杉浦 正章  政治評論家
 もがけばもがくほど深みにはまってゆく。それが与謝野馨を経済財政相に、枝野幸男を官房長官に、それぞれ起用する内閣改造人事であろう。ひょっとしたら、この目玉人事が政権崩壊の原因となり得るのではないかとさえ思う。それほどに無理があるのだ。とりわけ民主党政権批判を繰り返してきた与謝野は、政権にとってはいわば“宿敵”であり、三顧の礼で協力を依頼するほどの人物でもない。それほど菅は自信喪失状態であったのか、の証左となるのだ。

 「与謝野人事」のもつ構造的な危険性は、二つの側面から指摘できる。一つは、野党に好餌を与えたと言うこと。他の一つは、党内の路線対立を決定的なものにした点だ。まず前者だが、与謝野の反民主党的言動は定評があり、その鋭い弁舌から言っても、自民党時代は政権追及の急先鋒であった。与謝野はマニフェストを「選挙対策の文章にすぎない。財源に何の根拠もない」と批判し、「民主党に日本をまかせれば終わる」とまで言い切った。個人攻撃も激しく、首相・鳩山由紀夫を「東大出身のはずなんだけど、相当に頭が悪い」と侮辱した。著書の『民主党が日本経済を破壊する』も、民主党への警鐘に満ちており、野党にとっては“動かぬ証拠”がいっぱいだ。これが入閣したとなれば、野党は、与謝野が鳩山の答弁の矛盾を指摘してきたのと全く逆の攻撃が可能となるのだ。菅は抜けしゃあしゃあと「民主党の流れとは、大きなところでかなり共通性の高い政治家だ」と発言しているが、「どこが?」と問いたい。

 党大会では、参院議員・森ゆう子の「与謝野さんを内閣に入れて、大増税。それでいいのですか」との、たまりかねたような不規則発言に拍手が生じたように、党内的にも深刻な路線上の亀裂を増幅させた。消費増税とマニフェスト見直しの象徴として与謝人事は躍り出たのだ。既に党内は、マニフェスト固執・消費増税反対の親小沢と現実路線の菅との間で、水と油のような路線対立が生じており、与謝野人事は火に油を注いだ。もはや親小沢グループには「憎しみ」のような感情が支配しようとしており、与謝野人事は対立を抜き差しならぬところまで持ってゆく材料に違いない。政権運営のノウハウで行き詰まった菅は、与謝野という“龍玉”を入手したと思っているのだろうが、やがてとんでもない「癖球」であることが分かるだろう。

 与謝野自身も「巧言令色鮮(すくな)し仁」を露呈させた。「百日の説法、屁一つ」ともいえる行動だ。いくら論客ぶりを発揮して、弁明しても、国民は行動を見る。選挙区で落選し、民主党批判で辛うじて比例区に当選したのだから、有権者には説明できない。著書に『堂々たる政治』があるが、普通政界では、こうした人事を「一本釣りにかかった」という。さしずめ『堂々たるダボハゼ政治』であろう。菅は自民、公明などとのパイプに期待しているようだが、古来「昨日勤王、今日また佐幕」の輩は、映画でも水車小屋の前で斬られることになっている。野党がお人好しに与謝野に協力することなどあり得ない。都知事石原慎太郎が「なぜ沈みかけた船に乗るのか。政治家の資質の問題で、彼はこれで終わりだ」と胸のすく発言をしているのが、正解だ。

 一方「枝野官房長官」人事も、菅は重大な欠陥を見落としている。それは、枝野の発言にごまかしがあることだ。最大のごまかしが事業仕分けで、16兆8千億円の財源が見つかるようなことを言っていて、見つからないことが判明したさいの、言い訳の“理論構成”の稚拙さだった。幹事長として指揮した参院選大敗北後の言動も、みんなの党代表・渡辺喜美からは「馬鹿か、お前は」と批判された。「ぼくは弁護士出身ですから」が口癖だが、討論を聞いても、発言は長いばかりで、ポイントがずれている。また弁護士特有の本能か、ポイントを外そうとしている。官房長官職は、首相と共にくまなくスポットライトが当たるポジションであり、ごまかしが利かない。枝野の姿勢なら、官邸詰め記者の信望は得られまい。弁護士の仙谷由人で懲りたはずなのに、また弁護士の登場だ。こうして菅政権は改造したはいいが、新たな火種を2つも抱える結果となった。
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