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2010-11-19 07:29

事業仕分けは、仕分けられて、なし崩しに撤退か?

杉浦 正章  政治評論家
 大きななエネルギーと国費を使った「事業仕分け劇場」の雲散霧消化が見える。削減額は公約の16.8兆円にはほど遠く、最大で1兆3000億円程度にとどまった。仕分けの失敗は、マニフェストの虚構性にとどめを刺した感が濃厚である。民主党は、仕分けを巡って「内乱」状態が露呈、政権最大の表看板は遅かれ早かれ下ろさざるを得ない状況に立ち至っている。仕分けを絶賛してきたテレビや新聞などは、ようやく気づいて批判に回り始めたが、最近のマスコミは、物事の判断能力が致命的に欠ける部分が多い。

 昨年11月に仕分けが始まったとき筆者は「見せ物政治の域を脱していない。政権には結果が求められていることが分かっていない。本来地味で複雑で専門的な予算編成作業に、民放テレビキャスターの軽佻(けいちょう)浮薄を持ち込んだ」と断定したが、テレビ、新聞のもてはやし方は異常であった。「2位では駄目か」の蓮舫が英雄となり、朝日新聞は2009年11月19日付社説で「事業仕分け、大なた効果を次につなげ」との高揚した見出しを取り、「何より、全面公開で行われる事業仕分けは、霞が関の官僚の意識改革や納税者の参加意識の向上にもつながるに違いない。来年以降の予算編成にも、何らかの形で生かしてもらいたい」と賞賛した。それが官僚の意識改革どころか、知らぬ間に省庁側が112事業を骨抜きにしていたことが判明。いまや仕分けに期待する納税者はいない。「大なた」どころか、最初の事業仕分けで7000億円、10月の特会仕分けで4000億円、今回で2000億円、合計で1兆3000億円がぎりぎりの捻出(ねんしゅつ)額であった。

 鳩山由紀夫の「16.8兆」などは、大ぼらもいいところであった。民主党のマニフェストの財源面でのでたらめさに、とどめを刺すのが今回第3弾の仕分けであった。既に自民党政権へのアンチテーゼという部分はなくなり、役所べったりの政務3役が“族議員”と化し、「民主党対民主党」の内輪争いが展開された。農水政務官・松木兼公は「はじめはフレッシュでも、腐ってくる」と捨て台詞を残し、農水副大臣・篠原孝は「役割は終わった。来年はやめる」と断言。最近執行部批判が目立つ前総務相・原口一博は「費用対効果がすべてと思っている人たちを仕分けるべきだ」とのたもうた。要するに、事業仕分けが仕分けられるべき時が来たのだ。失敗と気づいたのだ。

 そもそも仕分け作業は法的位置づけが全くない。仕分けを行う行政刷新会議は閣議決定されただけで、法的バックアップがないままだ。各省庁にしてみれば、大衆の面前で「国民の代表」と自称する民間人から怒鳴りつけられても、後ろに回って舌を出していればよかったのだ。だから憶面もなく名前を変えて来年度予算案に盛り込もうとする事態が発生したのだ。見る度に苦々しさを覚えた事業仕分けなるものの限界がようやく分かったが、このために費やした役所の作業や費用、エネルギーはそれこそ仕分けられるべき筆頭であろう。菅はこれから事業仕分けの存否を検討するようだが、なかなかすぐには「もう役割を果たした」と言うわけにはいくまい。マスコミが離反しては、パフォーマンスも成り立たない。なし崩しで撤退してゆくのだろう。 
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