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2010-11-14 20:15

(連載)新興経済諸国(とくに中露)との関係を再考せよ(3)

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 新興経済諸国の台頭がつきつける最も深刻な問題は、自由主義世界秩序の脆弱化である。ユーラシア・グループという政治リスク・コンサルティング会社のイアン・ブレマー社長とニューヨーク大学スターン・ビジネス・スクールのヌーリエル・ルービニ教授は、Institutional Investorというブログで「世界は、一極覇権による安定から無極で無責任な不安定に変貌しつつある」と述べている。覇権安定理論によれば、自由主義国家でなければ自由世界秩序という国際公共財を提供することはできないとされている。戦間期のイギリスがアメリカとの両頭体制を模索したように、覇権国家が他の大国と責任を分担することはあり得る。しかし責任を分担する国は単に国力があればよいというものではなく、自由主義国家でなければならない。イギリスがナチス・ドイツやソ連と責任を分担しようとしたことはない。現在の新興経済諸国には日米欧と責任分担するだけの充分な資格を備えていない国が多いので、G20による政策調整がうまく機能しないのは当然である。

 もちろん、日米欧と対等な関係を築きたいという新興経済諸国の希望は尊重すべきである。真の問題は、これらの国々の体制の性質である。特に、どのような基本理念で国家建設を行なってきたかに注目する必要がある。毛沢東主義の中国による「平和的台頭」は危険であるが、民主主義のインドによる競争力の向上は平和的である。独立以来、インドはイギリス労働党の基本理念であるフェビアン主義による経済開発を追求してきた。だからこそ、インドの台頭は歓迎できても、中国の台頭は歓迎できないのである。

 近視眼的な財界人は、世界を「カントリー・ファースト」の視点から見直す必要がある。新興経済諸国について、相手が何者かを見極める必要がある。危険な体制の国々と取引を行なう多国籍企業は、短期的には利潤を挙げられるかも知れないが、長期的には損失を被るであろう。かつて日本の大平政権は、在テヘラン米大使館占拠事件の際にアメリカとヨーロッパの同盟諸国がイランに経済制裁を科したにもかかわらず、IJPC石油化学プロジェクトの建設を継続した。ならず者国家との商取引は、結局のところイラン・イラク戦争によって頓挫してしまった。

 新興経済諸国をただ新たな市場としてしか考えない者達は、あまりに単純な朴念仁か、シャイロック的な金儲け主義者かである。新興経済諸国は、経済的な競合相手にも、安全保障上の脅威にも、その他の何にでもなり、我々の自由主義世界秩序を破壊するかも知れないのである。現在、日本は尖閣諸島と北方領土の緊張が激化する中で、APEC首脳会議を主催している。まさに、先進民主主義国と新興経済諸国の関係を再考するには格好の時期である。日米欧の指導者達は、新興経済諸国にどう向き合うかを見つめ直すべきである。(おわり)
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