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2010-10-28 10:15

「中国の前原外相外しを許してはならない」論に賛成する

吉田 重信  中国研究家
 10月23日付の本欄に投稿された伊藤憲一氏の「前原外相外しを許してはならない」と題する主張の要点に、筆者は共感する。確かに、筆者が最近、北京で中国筋から得た感触によれば、中国現政権は、前原外相の言動に強い不信感を抱いているようである。中国側は、前国交大臣である前原外相について、アメリカの「ネオコン」派(先方の表現のまま)のようにみており、かつての自公政権のように日中関係を処理する経験も賢明さもないと判断していることがうかがわれる。これまでの中国政府のやり方から考えると、今後、中国政府は、前原外相を交渉相手としないという姿勢を示す可能性がある。かつて小泉首相が靖国神社への参拝を繰り返し強行したことに起因して、日中関係が悪化したとき、中国政府は、小泉首相との面談を拒否し続け、結局、その打開は小泉首相の跡を継いだ安倍首相が「和解」を求めて、中国を訪問するまで待たざるをえなかった、という事例を思い出す。もっとも、筆者は、そのときの「和解」が、本格的なものでなかったと考えているが。

 中国政府の信を失った前原外相を、国民が擁護すべきか否かを、いまや日本国民は問われている。筆者は、この点についての伊藤氏の主張は、妥当であると考える。なぜなら、もしも、中国政府の意向に従って、日本政府の首相や閣僚を変えたり、選定したりするという先例をつくれば、中国政府は、日本の政治を意のままに動かすことになりかねないからである。その意味で、筆者は、当面は、国民は前原外相を擁護すべきであると思う。民主党政権を選択したのは、日本国民であり、この点は、国民の選挙を経ていない中国政府のあり方と違うからである。

 しかし、それにしても、これまで日中関係を処理するに当たっての菅内閣の度重なる不手際や無策ぶりには、目に余るものがある。とくに、前原外相の強硬論一点張りのような発言には、外交責任者としての資質を疑わせるものがある。もちろん、大人げない反応を示した中国政権側にも不手際と不穏当な面があったことも、明らかである。しかし、もしも、菅内閣が、日中関係の重要性をきちんと認識し、タイミングよく、効果的な措置をとっていれば、日中関係がこれほどまでに悪化することは避けることができたのではないか。残念である。また、菅内閣は、「政治主導」の建て前もあってか、外務省の中国専門家たちの経験や知恵を生かせなかったことも、災いしたように思われる。外交を成功させるには、タイミングと外交当局者の「言葉」が重要であることを、いまさらのように痛感する。

 日本国民の選挙により実現した、民主党による「政権交代」は、日本の議会制民主主義の発展に資するのみならず、長期的展望からは中国の政治改革と民主化への動きをも促す効果があると考えられる。民主党が政権に就いて以来、一連の対外関係の停滞や混乱は、日本にとって重要な対米関係のみならず、対中関係の処理に当たっても、民主党が経験不足であることを露呈している。これに対し、長期間自公政権とはなじみの深かった中国政権は、見ようによっては、民主党政権が退陣して自公政権が再登板することを期待しているようにもうかがわれる。しかし、「政権交代」の意義を評価する筆者は、民主党政権が試行錯誤や多少の過ちを経験・学習しながら、いましばらく存続し、対米、対中関係をはじめ外交問題の処理の戦術と戦略を身につけて、日本の存立と繁栄に欠かせない老練な外交術を発揮することを望むものである。執権党となった民主党は、今や国家経営術を本格的に習得する時であろう。
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