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2010-10-06 06:27

(連載)日中首脳会合後の日中関係(2)

角田 勝彦  団体役員
 さて政治の論理による戦略的互恵関係発展の努力と別に、国境問題については粛々と軍事の論理を適用することが必要である。もちろん、その一環として不測の事態を避けるため、前原外相が10月1日の講演などで表明したとおり、日中間で再発防止策の取り決めを目指すことは必要である。しかし、中国は尖閣諸島を自国の領土と主張しており、温家宝首相は9月23日、国連総会の一般演説で「国家主権や国家の統一、領土保全といった核心的利益について中国は決して妥協しない」と表明した。10月2日付の香港紙『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』は中国外交筋の話として、中国政府が今年に入り、尖閣諸島の領有権を台湾やチベット、新疆ウイグル両自治区と同列の「核心的利益」に位置付けたと報じた。9月28日、中国紙『中国海洋報』は、国家海洋局が、パトロール部隊である「海監総隊」の2020年までの中長期発展計画を制定したと伝えた。計画は巡視船や航空機などの装備を全力で拡充する方針を打ち出しており、胡錦濤政権が海洋権益保護に向け全面的な態勢強化に乗り出したことを示すものとされる。

 報道によれば、民主党の山口壮政調副会長が9月30日に訪中し、中国外務省の日本担当幹部と会談した際、中国側は「日本は武力に訴えてでも領土問題を解決するつもりなのか」と不満を示した由である。「衣の袖から鎧が見えた」といえよう。これらの動きに対しては、不測の武力衝突を生じさせないためにも、彼我の海上兵力であまりひけをとらない今のうちに、我が国として海上保安庁の装備増強を図るなど領域警備を強化するほかない。幸い与野党の合意があり、来年度予算を待たず今年度補正予算案で盛り込む方針で検討が進んでいる。迅速な実施に踏み切るべきである。

 この関連で「領域警備は中国だけを特別に考えるのではなく、ロシア、韓国についても同様に対処せよ」との見解があるが、尖閣は領土問題ではなく、わが国による実効支配が行われているという論理的見地、及び海保の能力の現状という現実的考慮からして、この見解は妥当ではない。最後に付記したいのは、政府の責任の問題である。いくら弁明しても、国民の信頼は回復しまい。読売新聞社が10月1~3日に実施した全国世論調査によると、中国漁船船長釈放の決定について、菅首相が「検察当局が判断した結果だ」と説明し、「政治介入はなかった」としているのに対し、「納得できない」が83%に上った。「適切ではなかった」と思う人は72%に達し、その理由としては「日本は圧力をかけると譲歩するという印象を与えるから」が41%で最も多かった。中国側の強硬姿勢に対する日本側の対応への不満が、内閣支持率を9月の66%から53%へ引き下げている。

 責任をとらない内閣では、国会乗り切りは困難であろう。首相が数ヶ月で交代するのは好ましくないが、誰かが責任をとるべきだろう。この関連で、9月29日午前の記者会見で仙谷官房長官が、中国側が船長の釈放を求めて態度をエスカレートさせてきたことについて、「20年前ならいざ知らず、(中国は)司法権の独立、政治・行政と司法の関係が近代化され、随分変わってきていると認識していたが、あまりお変わりになっていなかった」と述べ、自身の見通しの甘さを反省したのは、示唆するものがあるのではなかろうか。(おわり)
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