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2010-10-01 07:39

目に余る首相の無責任と使命の放棄

杉浦 正章  政治評論家
 衆院予算委員会集中審議の実況に対して、おそらく茶の間からは「うそつけ」のブーイングの嵐が飛んでいたに違いない。首相・菅直人も官房長官・仙谷由人も開き直ったように、中国船長釈放問題をすべて検察の責任に押しつけた。恐らく誰もが信用していまい。この国は虚言症の首相を頂くことになった。“菅・ザ・ライアー”の誕生である。政治家の使命と責任の放棄の場として9月30日の予算委質疑は長く記憶されるであろう。筆者が茶の間からのブーイングを予想したのは、宮崎県知事・東国原英夫のブログを見たからだ。首相番記者がはりついているはずなのに、全国紙はこの重要な事件を報道していない。同ブログによると大相撲千秋楽で土俵に上がった菅に、「売国奴」、「辞めちまえ」のブーイングが飛んだという。居合わせた東国原は「公衆の面前でのこういう野次は、ちょっと辛い。こういう野次に耐えなければならない首相って、大変だな~、とつくづく思った」と書いているが、国民感情を読み取った鋭いジャーナリスティックな反応だ。

 予算委質疑を精査すると、首相に対する質問に、仙石がだらだらと時間稼ぎの答弁を繰り返した。「総理お任せください」と事前調整済みであったのだろう。菅は、野党の追及にやっと「捜査に対する介入があったかと言えば、一切ない」と答えたが、これは言葉のレトリックだ。問われているのは、検察の釈放判断に対する政治介入であり、捜査の過程での介入など誰も聞いていない。要するに、苦し紛れのごまかし答弁だ。介入のあるなしをさておいても、「検察の判断」と強弁することが何を意味するか、まるで分かっていない。船長釈放は、首相自らが行わなければならない首相専権事項以外の何物でもない。それを一地方検事に委ねることは、為政者としての責任を放棄するに等しい。

 もしこの田舎検事が常識通り「起訴する」と判断した場合、首相は「検察独自の判断で、適切だった」と答えたのだろうか。まずあり得ない。首相、官房長官が政治介入の事実を何がなんでも覆い隠そうとする理由は何か。その答えは、法相・柳田稔が、まだ問題化していなかったにもかかわらず、「指揮権発動はない」との談話を早々と発表した点に尽きる。菅以下は、指揮権発動と言えば吉田内閣の造船疑獄における幹事長・佐藤栄作への訴追阻止のための発動のイメージがあるに違いない。法相辞任に発展している。しかし、検察庁は行政機関であり、国家公務員法に基づき、その最高の長である法務大臣は、指揮命令ができるのだ。もちろん検察庁法により、法相は「検事総長のみを指揮することができる」と制限付きではある。法に基づく指揮権発動は、汚職捜査の訴追などをのぞけば、可能である。今度の場合、菅が高度の政治判断に基づき、検察を指揮して船長を釈放させることもあり得たのに、羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹き、虚言の上に虚言を重ねる結果を招いているのである。

 かくなる上は検事総長の証人喚問が不可欠になる。野党は多数の参院でやればよい。朝日新聞は、10月1日付の社説で「内閣は指揮した事実とその内容を明らかにして、主権者である国民の判断を仰ぐ、それが、独裁体制とは違う民主主義の強さと奥深さではないか」と卓論を展開している。まさにそのとおりだ。自民党の質問者・小野寺五典が「ことが明確になったときには、総理大臣を辞めるだけではなく、政治家としての責任を取るか」と追及したのにも、菅はあいまいな答弁に終始した。しかし遅かれ早かれ介入の事実は暴かれてゆくだろう。口をぬぐって済むのは、野党時代の発言だけだ。菅は「先送り一掃宣言」の前に「虚言一掃宣言」をすべきだ。
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