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2010-09-29 12:56

専制国家中国の威圧に世界の民主諸国家はどう対処するか?

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 尖閣諸島をめぐる中国と日本の領土紛争に関して激しい議論が展開されているので、私も一言述べさせていただきたい。この領土紛争は、二国間の衝突にとどまらぬものがある。この紛争はグローバルな観点から理解されねばならない。日本政府は中国の圧力に屈して無法な漁船船長を釈放してしまったが、この決定の理由の一つとして、中国がレアアースの対日輸出を禁止したことが挙げられている。尖閣紛争は、2009年1月にロシアとウクライナの間で起きたガス・パイプラインをめぐる紛争と酷似している。ロシアはガス・パイプラインの封鎖によってヨーロッパ諸国を恫喝し、ウクライナはロシアに屈服したのである。ウクライナは、黒海艦隊の駐留期限延長の協定を結んで、クレムリンに自国の主権を売り渡してしまった。

 中国とロシアの資源外交は拡張主義的な野心とも重なり合っている。ロシアが東ヨーロッパと旧ソ連諸国を自分達の勢力圏と見なしているように、中国も東シナ海と南シナ海の島々を太平洋からインド洋へと進出するための「真珠の首飾り」と見なしている。中国が海軍拡張を行なっていることはあまりにもよく知られている。ロシアが欧米との地政学的競合で帝政時代とスターリン時代の本能に基づいて行動するように、中国も東アジアでの優越的な地位を主張する際には儒教的中華秩序を理念とする「冊封」本能に基づいて行動する。歴史的に見ると、アヘン戦争でビクトリア女王の砲艦に撃破されるまで、中国はいかなる外国も対等の相手と見なしたことはなかった。

 中国が自国の立場をごり押ししてくる際には、この歴史的な観点を決して忘れてはならない。尖閣紛争は竹島紛争よりも深刻である。後者の場合、韓国民が歴史認識をめぐってしばしば反日運動を行なうものの、韓国には日本を支配下において見下ろそうという野心も実力もない。しかし中国には東アジア全土を支配しようという「冊封」の野心があり、ロシアがウクライナに強要したように、日本を屈服させようと手段を尽くして迫っている。専制国家の中国は、民主国家の韓国よりもはるかに危険なのである。旧冷戦下では、専制国家は我々の体制の外にあり、国際経済取引ではわずかな割合しか占めることはなかったが、新冷戦下では、専制国家はグローバル経済を利用して、我々に自分達の意志を押し付けてくるのである。

 2010年3月12日に放映されたNHKテレビの「日本のこれから」という番組では「日米同盟と日本の安全保障」がテーマになった。その中で保守派論客の櫻井よし子氏は「中国の脅威に対処するためには、かつてソ連に対して行なったように、日米同盟を強化することが必要だ」と主張した。これに対して、東京大学の姜尚中教授は「今日の中国は、かつてのソ連よりも、はるかにグローバル経済に組み込まれているので、中国は日本への脅威にはならない」と反論した。しかし、ウクライナがロシアに屈従したように、日本も中国に屈従することにならないとは、どうして断言できるのだろうか。ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上級研究員が『The Return of History and the End of Dreams』という著書の中で指摘した「グローバルな基本構造」は、全く姜尚中教授の念頭に置かれていない。日本がこれ以上の叩頭を続ければ、全世界の専制国家を勢いづかせてしまう。
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