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2010-09-24 15:10

(連載)日中衝突で日本は反転攻勢に出よ(1)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 尖閣諸島沖で中国漁船と海保の巡視船が衝突して中国漁船の船長が逮捕されて以来、中国側は「船長の即時無条件解放を求める」として、日本側に対する圧力をエスカレートさせ続けている。中国側がこれまでに明らかにしている主な対日報復措置は、(1)東シナ海のガス田共同開発に関する局長級交渉の延期、(2)全人代代表団の来日中止、(3)閣僚・省長級以上の交流の一時停止、(4)日中間の航空路線増便のための協議の中止、(5)日中石炭関係総合会議の延期などである。

 ただ、これらの報復措置には、実質的な意味はない。例えば、中国は米国に対しても、米国の台湾への武器売却やオバマ大統領とダライ・ラマの会談を理由として米中軍事交流を一方的に中止しているが、米国は何の痛痒も感じていない。上に列挙した「報復措置」はこれと同様のことである。日本が慌てふためく必要は全くない。中国は、上海万博視察のために9月21日から訪中する予定だった日本の大学生ら1000人の青年訪中団の訪中に関しても中止要請をし、日本側はこれを受け入れている。こんなことは、中国のヒステリックな反応の異常性を示す以外の意味はない。

 中国の対応のうち、上記のように中国が声を大にして「報復である」と言っているものはほぼ全て無視して構わない性質のものである。さらに、日中首脳会談も見送られることになったが、これもそれほど深刻に捉える必要はない。小泉政権時代に、靖国参拝等をめぐって日中首脳会談が途絶えたことがあった。しかし、そのことで深刻な打撃を受けはしなかったことを想起すべきである。また、経済活動への影響を懸念する向きもあるが、経済活動は双方が利益を得るから行われているのであって、中国側が経済活動を阻害するような動きに出たならば、自分も困ることになる。政経分離の原則を忘れるべきでない。真の脅威は、中国が声高に叫んでいるあまり意味のない外交的言辞の陰で進めている実効力を伴う行動である。

 中国は、東シナ海の日中中間線付近にあるガス田のうち「白樺」の中国側施設に掘削用ドリルと見られる機材を搬入し、両国間の合意を無視して一方的に単独掘削を開始する構えを見せている。さらに、浙江省寧波に司令部を置く東海艦隊の防空ミサイル駆逐艦を同海域周辺に派遣し、軍事的に威圧することも検討されている。こうした動きは、逮捕された中国漁船船長の無条件解放に向けた対日圧力と、東シナ海を「中国の海」とするための具体的な行動とを兼ねた行動である。中国側がここまでエスカレートしてきている理由は3つほど挙げられよう。まず、中国の東シナ海進出の強い意志である。次に、日米関係の冷却化である。アーミテージ氏も指摘している通り、中国は日米関係がどのような状態にあるのか試しているのであろう。そして、13日に日本政府が、船長以外の乗組員と漁船を中国側に返還してしまったことは、中国を増長させるきっかけとなった可能性がある。(つづく)
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