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2010-08-23 10:24

(連載)「核なき世界」への障害(1)

河村 洋  NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 世界の安全保障は「核なき世界」に向けて動き出したのだろうか?プラハ演説に基づいて、バラク・オバマ大統領は4月12日から13日にかけてワシントンで核セキュリティー・サミットを開催した。また、ジョン・ルース米大使は8月6日の広島の原爆記念式典に、史上初のアメリカ代表として参加した。こうした行動は印象的だが、「核なき世界」の目標を達成するには長い道程を要する。それは冷戦後に古い地政学が復活し、「ならず者国家」が核開発計画を追求しているからである。

 まず「核なき世界」の構想に関して、基本的な点について述べたい。これはバラク・オバマ氏のオリジナルではない。「核なき世界」に理論的な基礎を与えたのは、2007年にウォールストリート・ジャーナルに共同で投稿したヘンリー・キッシンジャー元国務長官、ジョージ・シュルツ元国務長官、ウィリアム・ペリー元国防長官、そしてサム・ナン元上院議員らのアメリカの長老政治家達である。超党派の投稿論文では、政策形成者達にMADという冷戦思考だけでは、イランや北朝鮮に代表される「ならず者国家」やテロリスト集団のような非国家アクターに対抗できないことが、主張されている。四人の政治家達はリアリストの視点から主張を掲げただけで、プラハ演説で注目された「核兵器を使った唯一の国として、アメリカには行動すべき道徳的責任がある」といったような物議を醸すようなことは、何も述べてはいない。

 この一節に関して、カーネギー国際平和財団のジョージ・パーコビッチ副所長は「オバマ氏は、核の脅威が存在する限り、アメリカは自国民とその同盟国を守るために核抑止力を維持しつづける、と明言した」と指摘する。「核なき世界」の実現にとって最も大きな障害となるのは、ロシアと中国が突きつけてくる古い地政学の復活である。ロシアは東ヨーロッパと旧ソ連諸国を自己の勢力圏として維持したがっている。中国に関しては、ゴードン・チャン氏が「北京の冷徹で実利本位の指導者達は、我々が人権問題で強く出なかったのは弱さの象徴だと受け止めている。我々が弱いと思われてしまえば、彼らが協調する理由はなくなる。よって、人権の普及はアメリカの安全保障につながる」と述べている。

 オバマ政権は、ロシアとの互恵的な取り決めを模索しているが、保守派はクレムリンがアメリカとの核均衡を求めているだけだとの理由から新STARTに懸念を抱いている。ジョン・ボルトン元国連大使は軍縮の目的ばかりを優先するオバマ政権を批判し、「アメリカとロシアの立場は同じではなく、核弾頭数の均衡にこだわれば、モスクワよりワシントンの方が国益を損ねてしまう」と言う。私は「アメリカは世界各地の同盟国を守らねばならないが、ロシアにはその必要がない」というボルトン氏の見解に同意する。(つづく)
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