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2010-08-03 07:30

予算委質疑の根底に首相の党利党略・個利個略

杉浦 正章  政治評論家
 野党自民党が世論を意識した「世論目線」なら、首相・菅直人は死んだふりの「党内目線」。これでは予算委論議は、噛み合うはずもない。朝日新聞は、社説で「与野党の姿、新たな兆し」と手放しで歓迎しているが、甘くて、読んでいられない。根底に解散総選挙への潮流を意識した鋭い対立があるのを見逃してはならない。自民党は相手を引き寄せた上で、腰に載せて投げる柔道の“釣込み腰”戦術と見た。

 たしかに自民党の質問は、総裁・谷垣禎一の「日銀総裁が空席になるような無茶なことを自民党は決してしない」とか、政調会長・石破茂の「罵倒されても普天間移転を実現する決意があれば、国益のために全力で支える」といった発言は、一見新鮮である。ねじれ国会における与野党の接点ができたようにも受け取れ、朝日が「昨日のような論戦の有り様が定着すれば、政策ごとに多数派を形成する土壌も整う。歓迎である」と書くのも無理はない。しかし社説は本筋を見ていない。むしろ国会論議を“誘導”する意図が濃厚だ。

 なぜなら、予算編成一つ取っても、民主党マニフェストをめぐる与野党対立軸はいささかも解消していない。谷垣が「民主党の衆院選マニフェストは履行不能だ。マニフェストの欺瞞(ぎまん)を解消する手だてはただ一つ。解散総選挙だ」と迫ったのに対して、菅は「マニフェストは7割達成した」と反論。「この形で政権運営をさせてもらいたい」と拒絶している。一方で菅は、2011年度予算編成に関し「場合によっては、野党の意見も入れて実現したい」と述べているが、子ども手当などを予定通り推進するのであれば、「野党の意見など取り入れない」と宣言しているのに他ならない。加えて、消費税論議も菅の後退が著しかった。取って付けたように菅は「財政再建は一歩も引かない」と述べたが、選挙中に「消費税10%を公約と受け取ってもらって結構」と述べたことは忘れたかのように、「党と税調で検討」を繰り返した。谷垣の「社会保障目的税にすべき」との主張にも、曖昧模糊(あいまいもこ)とした答弁に終始している。毎日が見出しに「首相平身低頭」と取るのも無理はない。

 なぜ平身低頭かと言えば、菅には9月14日の代表選挙のことしか頭にないのだ。党内、とりわけ消費税を政争の具にしたがっている小沢グループを刺激したくないの一点に尽きる。誰に対して低姿勢なのかと言えば、小沢に対して低姿勢であることを見逃してはならない。菅の予算委答弁を批判するなら、「国会審議を党内抗争に利用するな」が正解だ。自民党の一見柔軟姿勢に見える追及も、参院選勝利のかさにかかった追及がマスコミの批判を受けることを計算に入れたものにほかならない。初日の予算委質疑の根底には、早期解散で政権奪回を目指す自民党と、党内意識の再選路線を模索する菅の思惑が底流にあって、依然党利党略、個利個略の姿が浮かび上がる。
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