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2010-07-30 06:55

9・11テロ後、肥大化する米情報活動産業

川上 高司  拓殖大学教授
 9・11テロ以降、アメリカはテロ組織やテロ行為の情報収集を秘密裏に行ってきた。そのため予算規模や関係者に関する全貌はベールに包まれていた。それを『Washington Post』紙記者のダナ・プリエストと軍事専門家のウイリアム・アーキンが2年の歳月をかけて実態調査した。「Top Secret America」レポート(同紙電子版)がそれである。アメリカの情報活動産業の実態を3部に分けてすっぱ抜いて、その実体を明らかにした。それによると、情報活動産業は9・11テロ以降日々増長しつつあるが、もはや制御不能状態で、誰にも査察されず、その情報活動のおかげでアメリカが前より安全になったかどうか、を判断することも難しいと記されている。その巨大産業の実態は、簡単に言うと以下のようになる。

 政府の組織は1271にのぼり、その請負企業も1931になる。その組織や企業が対テロ情報活動や国土安全保障活動に関わり、米国内の拠点は1万カ所に上る。関わっている人員は85万4000人ほどで、毎年5万点の情報活動に関する報告書が作成されている(ただし、ほとんどはゴミとなっている)。これだけの関係部門が活動しているが、その仕事内容はほとんど同じで、ただの浪費と無駄の山である。たとえば、テロ組織の資金の追跡は、51の連邦組織や軍組織が行っているという具合だ。

 さらには、情報活動のために2001年以降新しい組織が次々と生まれている。2002年には37の組織が生まれ、2003年には36の組織が誕生し、2009年までに総計263の新たな組織が生まれた。組織が生まれれば、人員が配置され、予算がつき、請負契約が生まれる。つまりコントラクターが繁栄する。そして、いったん誕生すると、組織は消えることなく、さらに増殖する。まるで「ゾンビのようだ」と記者は評する。情報関連予算はいまや750億ドルにも増大している。

 そして、不況の中、共存繁栄しているのが情報関連の請負企業、コントラクターだ。いまや国家の情報活動の30%近くは、コントラクターが担っている。ジェネラル・ダイナミクスのような大手から中小のソフトウエア会社まで、もはやコントラクターなしには、CIAですら成り立たない状態なのである。安全保障の中枢である情報活動を民間に依存する危険性に目をつぶり、無駄を積み上げる政府の政策には、「仕分け」が必要なのかもしれない。
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