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2010-07-08 10:07

米軍再編の目的は抑止力維持であって、基地問題ではない

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 2006年に日米両政府によって、米軍再編の実施に向けて合意された「再編実施のための日米ロードマップ」(以下、ロードマップ)では、沖縄からグアムに移転する約8000人の海兵隊員の内訳は、司令部や後方支援機能の部隊であるとされていた。すなわち、沖縄に米海兵隊の司令部は残らないということであった。しかし、7月1日に、米国側は移転部隊の構成を見直し、移転予定であった司令部の一部を沖縄に残し、その代わりに同規模の戦闘部隊をグアムに移転すると、日本側に伝達してきたと報じられている。

 具体的には、ヘリ部隊などを指揮する第1海兵航空団司令部(約1900人)を沖縄に残し、海兵隊の海外展開に際して組織される海兵空陸任務部隊(MAGTF)に含まれない歩兵部隊をグアムに移転するということらしい。これは、朝鮮半島情勢の不安定化や、4月の東シナ海から太平洋における海軍の大演習に象徴される中国軍のこの地域での活動活発化を受けて、司令部を沖縄とグアムの2段構えにすることで即応性を高めることが目的である。今年5月末の日米共同声明には、海兵隊のグアム移転に関して、「米国は、抑止力を含む地域の安全保障全般の文脈において、沖縄に残る海兵隊要員の部隊構成を検討する」とあり、安全保障環境に応じた柔軟な見直しを示唆していた。これを具体化したのが、今回の米側による移転部隊構成内容の見直しである。ただし、この見直しは普天間飛行場の名護市辺野古への移設に関する日米合意には影響を与えるものではないと、米側は言っている。

 ところで、朝鮮半島に目を転じると、6月26日にG20に出席するためにカナダのトロントに滞在していたオバマ米大統領と李明博韓国大統領が首脳会談を行い、在韓米軍が保有している戦時作戦統制権を韓国軍に返還する時期を、当初の計画の2012年4月から2015年12月に延期することで合意している。この戦時作戦統制権は、朝鮮半島有事の際に在韓米軍が韓国軍を指揮するというものである。しかし、「反米」の盧武鉉前政権が自主防衛を理由に早期返還を要求し、2007年に移管に合意していた。しかし、北朝鮮の度重なる挑発活動を受けて、2012年の返還は時期尚早なのではないかという懸念が米韓の軍事専門家の間から出ていた。そこで、李明博大統領の側から返還の延期を申し出ていた。2015年への延期は、米軍の北朝鮮に対する抑止力を引き続き万全なものにするという意味がある。

 グアムに移転する在沖縄米海兵隊の構成見直しと、韓国への戦時作戦統制権の返還延期は、米軍の抑止力維持という同じ戦略的文脈にあると理解できる。このことは、米軍再編は単なる「基地問題」ではないということを明確にしてくれる。我が国は、米軍再編を基地問題に矮小化している限りは、米軍再編問題に関して米国と同じ土俵で話すことができない。普天間飛行場の県外・国外移設を打ち上げて、この傾向を極度に強化してしまったのは、民主党連立政権の極めて大きな罪である。米軍再編は抑止力の強化・効率化といったすぐれて戦略的な目的が第一義的であり、基地問題は第二義的なものである。その中で、沖縄の負担をどれだけ大幅に軽減できるかを丁寧に考えていくのが順番である。
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