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2010-06-30 10:37

アフガニスタン米軍司令官の交代再び

川上 高司  拓殖大学教授
 アフガニスタン司令官のスタンレー・マックリスタル将軍が辞任した。アメリカの『ローリング・ストーン』誌に掲載予定のマックリスタルの密着取材記事がホワイトハウスの逆鱗に触れたからである。この取材記事でマックリスタルは、オバマ大統領をはじめ、バイデン副大統領、アイケンベリー大使、ホルブリック特使らをこき下ろし、批判した。司令官の立場にある軍人が行政府を批判することは、シビリアン・コントロールを貫くアメリカにとっては見逃せない事態であり、オバマ大統領のとった行動は素早かった。

 この騒動は、「対中核攻撃」を要請して、トルーマン大統領から解任されたマッカーサー司令官を彷彿させるものがある。また、最近でも同じパターンが数年前に起こっている。ブッシュ政権末期、ウイリアム・ファロン提督が中央軍司令官に就任した。ファロンはブッシュ政権がイラン攻撃に積極的だったことに公然と反対して、政権と対立していた。そして雑誌に載ったインタビュー記事で大統領を批判したとして、1年もたたないうちに辞任に追い込まれた(後任はペトレイアス現司令官)。

 今回も司令官は雑誌記事でつまずいた。マックリスタル司令官はアフガニスタン戦争で増派を要請し、戦争の拡大を嫌うオバマ政権と最初から衝突していた。それでも結局は、マックリスタルの要請に応えてオバマ大統領は増派を決定した。しかし現在では、アフガニスタンにいくら増派をしてもうまくいかない。アフガン戦争での戦死者は1000人を超え、しかも開戦以来もっとも犠牲者の多かった昨年の半数を上回る犠牲者が出ている。戦争を闘っている期間も、ベトナム戦争を抜いてアメリカ史上「最長」となった。戦争経費も「兆単位の戦争」と言われるようになった。それでもアメリカがアフガニスタンの泥沼から這い出る希望は遠い。

 マックリスタル司令官は、陸軍が新たに作成したCOIN(対内乱対策)の信奉者である。COINでは、一般市民が優先されるため、タリバンと市民の区別がつきにくい。したがって、アフガニスタンの前線にいる兵士への負担が増えて、軍内部に不満がたまっている。つまりあらゆる面からマックリスタル司令官の戦略は手詰まりとなっていた。舞台から降りるべくして降りた司令官ともいえる。後任にはペトレイアス中央軍司令官が兼任することになり、戦略の方向性がただちに大きく変わることはないだろう。オバマ大統領は、2011年7月撤退開始のスケジュールは一歩も譲らない構えである。その一方で、もはやそのスケジュールは実現不可能との厳しい意見もある。アメリカ「史上最長の戦争」を終わらせるのは、容易ではない。
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