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2010-05-14 07:39

理解に苦しむ朝日の“先祖返り”論調転換

杉浦 正章  政治評論家
 「5月末普天間決着、断念」の方針を首相・鳩山由紀夫が明言したが、民主党内は静かなること林の如しだ。鳩山支持の声はあっても、批判の声はかき消されている。しかし、新聞論調は異なる。朝日が5月14日付の大型社説で「仕切り直すしかあるまい」と現政権での現状打開を明言したが、読売、毎日、日経、産経は責任論に徹している。いずれも政治と世論に大きな影響を与えそうだが、朝日は孤立した論調の形となった。鳩山が5月決着を断念したら、新聞論調はどのようなものになるか注目していたが、13日夕刊の段階で「断念」の本記で責任問題への言及をしたのは読売、日経、産経だ。読売は「首相の政治責任を問う声が高まるのは必至」。日経も「5月決着を守れないことで、首相の政治責任を問う声が強まるのは必至」。産経も「職を賭すと発言しただけに、政治責任を問う声が強まっている」と責任問題に直結させた。しかし朝日は、断念の本記を12面に持ってきた上に、「責任」には一切言及せずだった。

 最近の朝日は、責任言及を避けているふしが見らるようになったので、首をかしげていたのだが、14日付の社説で方向が明白となった。「現政権での仕切り直し」が“本心”だったのだ。同社説はいちおう「政治責任を首相は認めなければならない」としているが、これは退陣要求ではない。むしろ「首相みずから、政治レベルで対米協議ができない現状を打開すべきだ」「首相は今後、この問題に取り組む態勢を早急に立て直し、総合的な戦略を練り上げなければならない」と鳩山体制での現状打開を主張しているのだ。続投論だ。「安保の負担の問題を政争の具にしてはならない。与野党を超えて知恵を絞ってもらいたい」と野党への牽制球ともとれる主張もしている。同紙は1か月前の4月14日の社説で「鳩山首相にもう後はない」と題して、「結局は普天間がそのまま残るか、結論をさらに先延ばしするしかなくなる。いずれも鳩山政権に対する国内外の信頼を決定的に失墜させ、存続の危機にすら直面させるだろう」と政局に直結しうるという論調を展開していたが、それが様変わりした。現実に「結論先延ばし」となったのに、「存続の危機」論は影をひそめた。

 なぜだろうか。今回の社説を見ると、日米安保体制絡みの主張が大きく前面に出ている。「在日米軍の存在は必要だ。だが、海兵隊はずっと沖縄にいなければ、その機能を発揮できないのか」と海兵隊の存続に疑問を呈し、鳩山が「県外移設を模索しようとした方向性は間違っていなかった」と言い切っている。つまり、朝日の社説は、在日米軍基地に懐疑的な伝統的論調に“先祖返り”したのであろう。一方で、毎日の14日付社説は「繰り返される先送りと迷走の主因は、県外を繰り返し主張しながら本格的な検討もせず、最大の政治課題でリーダーシップを発揮しないまま、8カ月を浪費した首相の問題解決能力の欠如にある。今や、鳩山首相の言葉は羽根のように軽い。『首相の約束』をたがえ、政治への信頼を傷つけた政治責任は極めて重い」と明快に責任を追及している。

 日経は「政治のリーダーが『がんばってみたけど、約束は守れません』と内外に宣言し、責任を取らないような日本では、誰からも信用されなくなる」と厳しい。産経に至っては、「これは国民に対する背信行為である。政治は信なくば立たずだ。国民の信頼がなくなったら政治は成り立たない。首相としての信を失っている。退陣もやむを得ない」とストレートに退陣を要求している。読売も1日前13日付の社説で「実現できない場合、鳩山首相の言行不一致に対する批判は一段と高まろう。首相の政治責任は重大である」とすっきり言い切っている。朝日の論調は世論調査の結果や、鳩山の資質が問われている問題にあえて逆行するものだが、1か月前の社説との整合性をどうするのだろうか。「職を賭す」とまで言って国民に期待感を持たせてきた鳩山の政治責任は、「退陣」に値する。朝日がなぜ民主党内の続投論を勢いづかせるのか、理解に苦しむ。

  
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