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2010-04-13 16:00

オバマ大統領の新STARTへの強い疑問

河村 洋  親米NGOニュー・グローバル・アメリカ代表
 現在ワシントンでは47ヶ国の首脳を集めた「核セキュリティー・サミット」が開催されている。このサミットを前に、アメリカのバラク・オバマ大統領とロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領は、4月8日にチェコのプラハで新STARTに調印した。メディアはこの条約を国際平和と核兵器のない世界に向けた歴史的な一歩であるかのように礼賛しまくっている。しかし私は新STARTを手短かに批判したい。

 プラハ会談よりかなり前に、ジョン・ボルトン元国連大使が「オバマ政権は軍備管理交渉で致命的な誤りを犯した」と指摘している。それは、「削減のための削減を追い求め、アメリカの国益に真剣な考慮を払わなかった」ということである。ロシアとの核均衡を達成するために、アメリカは相手方以上に核弾頭を削減することになった。ボルトン氏は「アメリカとロシアの立場は同じではなく、核弾頭数の均衡にこだわれば、モスクワよりワシントンの方が国益を損ねてしまう」と述べている。アメリカは全世界の同盟国を守る必要があり、テロリスト、イラン、北朝鮮の脅威にも直面している。私は、オバマ氏が「削減に固執し過ぎ、国際世論の喝采を求めすぎだ」というボルトン氏の意見に同意する。実際に現在、ロシアと中国は対イラン制裁を軟化させようとしている。

 ヘリテージ財団のベーカー・スプリング、F・M・カービー研究員は「新条約では、アメリカのミサイル防衛も、弾頭と共に削減の対象になる可能性がある」と指摘する。アメリカがミサイル防衛計画を進めれば、ロシアは条約を脱退することが認められているからだ。これは西側にとって大変な制約である。アメリカの同盟諸国はイランや北朝鮮から間近に迫った脅威を受けている。ミサイル防衛がなければ、アメリカの安全保障の傘が脆弱になるのは、スプリング氏の言う通りである。

 外交政策イニシアチブのジェイミー・フライ副所長とジョン・ヌーナン政策顧問は、「広く考えられているように新STARTが全世界の核拡散防止を大きく前進させる」という見方に反論している。それはアメリカとロシアの戦略兵器の条約に過ぎない。戦術核爆弾は削減対象に含まれておらず、米露関係の「リセット」を保証するものでもない。きわめて重要なことに、フライ氏とヌーナン氏は「ならず者国家には、条約など通用しないが、リビアにはアメリカとイスラエルの軍事的な威嚇が通用した」と指摘する。

 最新のSTARTは、メディアと国際世論にとって魅力あふれるものかも知れないが、私にとっては、バラク・オバマ氏が核戦力でのアメリカの優位の維持をなぜこれほど軽視するのか、その理由がわからない。同盟諸国にとって、アメリカの優位が安全保障の傘を保障するものだからである。この条約は、かつてアメリカのジミー・カーター大統領とソ連のレオニード・ブレジネフ議長の間で調印されたSALTⅡの二の舞になるかも知れない。来る核セキュリティー・サミットを注視し、新STARTとサミットの相互関係をしっかり考えてみよう。核兵器削減は2010年の最重要問題になるであろう。
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