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2010-04-13 00:51

(連載)ギリシャ危機で露呈したユーロの弱点(3)

中岡 望  ジャーナリスト、国際基督教大非常勤講師
 もうひとつの問題があります。景気が悪い国の為替相場は下落するのが普通です。しかし、ユーロ・ゾーンの国では、為替効果が期待できないのです。ユーロ相場はユーロ全体の経済で決まり、特定の国の経済状況は問題にならないからです。仮にギリシャが為替相場を切り下げて輸出を増やそうとしても、それはできないのです。ただ、今回のユーロ安は、ギリシャの経済危機が原因となっています。それは他の加盟国にも影響を与えます。ドイツのように輸出依存度が高い国では、ユーロ安がプラスに作用します。現実にユーロ安でドイツの輸出は大きく増えています。期せずして景気刺激効果がもたらされた訳です。これは「ギリシャによる刺激(Greek Stimulus)」と呼ばれています。逆に輸入依存度の高い国では、ユーロ安はマイナスに働きます。すなわち輸入品価格が上昇するからです。

 また金融政策に関しても、同様のことが言えます。現在、ドイツやフランスの景気回復は進み、インフレ懸念が議論されています。異常な低金利政策の是正が必要になってきています。この問題は「出口戦略」として議論されています。しかし、景気の良い国の経済状況に基づいて金利を引き上げれば、ギリシャなど景気の悪い国に大きなダメージを与えることになります。現在、巨額の財政赤字を抱え、不況に苦しんでいるユーロ・ゾーンの国は、ギリシャ以外にポルトガル、イタリア、アイルランド、スペインがあります。この5カ国の頭文字を取って「Piigs」と呼んでいます。

 もうひとつの問題があります。それは「安定と成長のための協定」の125条に「救済の禁止条項」があることです。要するに、「どの加盟国も他の加盟国の中央政府、地方政府、公的機関の債務を救済してはならない」と決められているのです。今回のギリシャ危機では、ドイツ政府の対応が注目されました。それは、もし救済するなら、ドイツ政府しかないからです。協定で救済が禁止されているだけでなく、ドイツ国内でも救済に反対する声は強いのです。共通通貨を持っているとはいえ、それぞれが独立国家であり、他の国を救済するのに、国民の税金を使うことには抵抗感があるからです。ただ、今回の場合、ギリシャの破綻はユーロ・ゾーン全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。連鎖的に他の国も破綻に追い込まれる事態になれば、通貨同盟が崩壊する懸念も出てきます。当面ギリシャは、危機を乗り切ったのですが、これで解決したわけではありません。

 ユーロの救済禁止条項に違反する国があれば、その国をなんとかしなければなりません。ただ、除名することは現実的に出来ません。また、景気回復のために為替政策や金利政策を使えない国は、ユーロ・ゾーンに留まるメリットはないともいえます。逆に、厳しい緊縮財政を要求され、国内で深刻な政治問題を引き起こす可能性もあります。ハーバード大学のフェルドシュタイン教授は、ずっと以前から、こうしたユーロの持つ構造的な問題を指摘し、ユーロは崩壊する可能性があると指摘していました。もし「Piigs」のどこかが本当に破綻したら、ユーロそのものにも深刻な影響が及ぶことは間違いないでしょう。(おわり)
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