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2010-04-12 00:48

(連載)ギリシャ危機で露呈したユーロの弱点(2)

中岡 望  ジャーナリスト、国際基督教大非常勤講師
 ユーロが最初に為替市場で取り引されたのは1999年1月4日で、その時の対ドル相場は1ユーロ=1.1789ドルでした。現在の水準と比べると、非常にユーロ安で取引きが始まったといえます。ユーロ相場はその後も下落が続き、2000年10月26日には1ユーロ=0.8252ドルの最安値を記録しています。ユーロ安に対処するためにECBや日銀、ニューヨーク連銀が市場介入して、ユーロを買い支える局面もありました。そして2008年7月15日に1ユーロ=1.599ドルまで上昇しています。対円相場で見ると、2000年10月26日に1ユーロ=89円30銭の安値を付けています(すなわち超円高でした)。それが2008年7月23日に1ユーロ=169円75銭まで、ユーロ相場は上昇しています。

 こうしたプロセスを経ながら、ユーロはドルに並ぶ国際通貨として認知されていきます。ユーロが導入された翌年の2000年には、ユーロは世界の外貨準備の18.8%しか占めていませんでした。ただ、1998年のユーロ・ゾーンの中で最強の経済力を持っていたのはドイツ・マルクで、その外貨準備の比率は約14%でしたので、ユーロ導入で比率は若干増えたといえます。しかし、その後は着実にその比率を高め、2008年には26.5%になっています。逆にドルの比率は2000年の70.5%から2008年には64%にまで低下しています。ちなみに円は2000年の段階で6.3%でしたが、2008年には3.3%にまで低下しています。

 実は、ユーロには重大な問題があります。それはECBが共通の金融政策を担当するのに対して、財政政策は加盟各国の政府に任されていることです。すなわち金利はECBが決めるのに、税制や歳出は加盟国の政府が決めるという二重構造になっているのです。またユーロ・ゾーンの国の経済成長率やインフレ率は異なっています。本来なら一つの国では金融政策と財政政策は一体化して、その国の経済状況に合わせて実施されます。ユーロ・ゾーンは共通通貨のユーロを導入したのですが、国家の枠組みは残されています。財政状況がばらばらでは、共通通貨であるユーロを維持するのは困難です。そこで、加盟国の財政規律を守るために、1997年に「安定と成長のための協定」が結ばれます。そこで通貨同盟に加入する財政の基準が決められたのです。すなわち「財政赤字はGDPの3%以内」との基準を守ることが要請されました。もし、この基準に違反すると、その国は違反金を支払わなければなりません。さらに2005年3月に「国債残高をGDPの60%以下」に抑えるとの修正も加えられました。

 しかし、現実には、多くの加盟国はこの基準を満たすことが出来ませんでした。今回、問題となったギリシャは、この「60%、3%ルール」を満たしたことはありません。また、ギリシャはGDP統計に地下経済などの経済活動など、通常はGDP統計に加えられない数値を上乗せして、GDP統計を水増ししたり、国債発行をスワップとして処理して、債務額を減らすなどの細工をして、基準を満たそうとしたこともあります。ギリシャの危機は、格付け会社による格下げが発端となりました。それほどギリシャの財政状況は悪いと見られています。一国の場合、景気が悪くなれば景気政策を発動して、財政赤字を拡大することができますが、ユーロ・ゾーンの場合には、そうした財政政策に枠がはめられているのです。(つづく)
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