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2010-04-02 21:01

(連載)日本の対露政策はこのままでよいのか(1)

袴田 茂樹  青山学院大学教授
 プーチン首相は、日露平和条約問題に熱意を示したが、といっても、かれの考えは歯舞、色丹の二島引き渡しを約束した日ソ共同宣言から一歩も出ていない。それに対して、メドベージェフ大統領は、領土問題解決に関して「独創的アプローチ」を口にするが、かれも日ソ共同宣言止まりで、かれからはプーチンを超える新たな提案は何もない。これまでの発言から推して、メドベージェフにも主観的には領土問題を何とか解決したい意思がある。しかし、彼がプーチンの意思を超えた決断をなし得ると考えるのは間違いである。

 大国主義、ナショナリズムが高まっているロシアの政治情勢、また経済危機で国民の不満が強い社会情勢を考えても、ロシア指導部は日本に重大な譲歩をしたと見られる決断はできない。つまり、平和条約問題解決に関して客観的に「機会の窓」が開いているとは言えず、日本政府はメドベージェフの「独創的アプローチ」に過大な期待をかけるべきではない。

 では、わが国として、このようなロシアにどのように対応すべきか。最も重要なことは、日露の経済関係の発展と平和条約問題を含む政治関係の発展のバランスをとることだ。この点で大きな懸念がある。それは、近年のわが国の対露政策がロシアに結果的に「日本政府は、領土問題を棚上げした」という間違ったシグナルを与えているということだ。つまり、ロシア側は「日本の関心は経済関係のみで、北方領土返還要求は単なる国内向けのタテマエであり、平和条約がなくても、日露関係は進む」という誤解を最近抱くようになっている。

 2008年11月にリマでのメドベージェフ大統領との首脳会談で、麻生首相は、経済関係のみが発展して、平和条約交渉が進展していない日露関係に強い不満を述べた。にもかかわらず昨年5月にプーチン首相が来日したときは、日本は大目玉の原子力協定をはじめとして、またもや盛りだくさんの経済協力協定を結んだ。この日本側のアプローチにより、ロシア側は一つの明確な結論を下した。「領土問題に関する日本政府の主張は国内向けのタテマエで、本音はロシアとの経済協力にある」と。『独立新聞』2009年5月13日号は、「第二次世界大戦時の敵国で、今日まで平和条約も締結されていない国家間で、原子力というデリケートな分野での協力協定が締結されたことは、特別の政治的意味がある。両国関係において領土問題はますます小さな役割しか果たさなくなる」と書いた。(つづく)
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