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2010-03-29 03:53

クロマグロをめぐり見えてきた日本外交のお粗末さ

吉田 康彦  大阪経済法科大学客員教授
 大西洋と地中海産のクロマグロ国際取引禁止をめざすモナコ案が、中東カタールの首都ドーハで開催のワシントン条約締結国会議で大差で否決され、日本にとって「ドーハの悲劇」は起きなかったが、日本政府の情報収集・分析はお粗末で、票読みも大外れだった。ワシントン条約締結国は175カ国。このうち150カ国が参加するとして、モナコ提案を葬り去るには3分の1の50カ国の同調が必要。直前の票読みでは、EU(欧州連合)27カ国と米国など欧米先進国がモナコ案支持を表明、環境保護派が勢いづいているのに対し、日本に同調しているのは韓国、中国、豪洲の3カ国にすぎず、せいぜい30カ国どまり、「ドーハの悲劇」は不可避というものだった。

 「ドーハの悲劇」とは、1993年のサッカー・ワールドカップ・アジア地区最終予選で、ドタン場でイラクに同点に持ち込まれ、日本が初出場の機会を逃した経験を指すが、テレビ局の中には、日本の前途を暗示しているかのように、このシーンを何度も放映したワイドショー番組もあった。「もうマグロのトロは食えなくなる」と悲観論を述べたコメンテーターもいた。

 ところがフタを開けてみたら、モナコ案賛成は20票に対し、反対は68票という大差の否決。日本政府は、「これぞ日本外交の勝利」と自画自賛したが、およそ的外れで、中国が大票田のアフリカ諸国を説得して、クロマグロ国際取引禁止反対に持ち込んだことが最大の“勝因”だったことが判明した。中国にすれば、環境保護派が中国で公然と行われているトラの国内取引を禁止し(国際取引はすでに禁止)し、さらにフカヒレの原料となるサメの規制強化にも動いており、その波状攻撃を食い止めるには、前哨戦としてクロマグロ規制強化を何としても阻止したいところだったわけだ。刺身・寿司のトロを愛好する中国人富裕層が増えていることも、モナコ案可決阻止の動機だった。

 恐るべし、チャイナ・パワーだ。中国は、昨年暮コペンハーゲンのCOP15(第15回気候変動枠組条約締結国会議)におけるCO2排出規制推進に向けて拘束力ある国際合意を未然に阻止したし、5年前には日本の国連安保理常任理事国入り阻止に動いた。いずれもアジア・アフリカの新興国が号礼一下、中国に同調した。さらにお粗末だったのは日本のメディアだ。新聞もテレビも現地ドーハに大量の記者を派遣しながら、日本政府の票読みに頼り、一喜一憂した。チャイナ・パワーを織り込んで事態を的確に予測した記者は一人もいなかった。
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