国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2010-02-23 16:34

陸自連隊長の「同盟」発言処分は不当

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 陸自第6師団の中沢剛連隊長(1等陸佐)が、宮城県の陸上自衛隊王城寺原演習場で2月10日に開かれた米陸軍との共同訓練の開始式で、鳩山首相の「トラスト・ミー」発言を批判したとして、注意処分を受けた。報道によれば、中沢連隊長は「同盟というものは、外交や政治的な美辞麗句で維持されるものではなく、ましてや『信頼してくれ』などという言葉だけで維持されるものではない」と訓示したとのことである。しかし、これは全く処分される筋合いのものではなく、実に簡潔にして要を得た同盟の本質論である。同盟とは、利害関係の共有を基盤として、契約(日米同盟で言えば日米安保条約)、信頼関係、同盟を維持しようとする相互の信念、その信念を具現化する行動の繰り返し、同盟を維持するための軍事的能力の確保、によって重層的に維持されるものである。

 したがって、中沢連隊長の発言は、まさに正鵠を射ているとしか言いようがないのである。しかも、鳩山政権発足以来の「反米的」政策や発言の連続により日米関係が悪化しているこの時期に、米軍との共同訓練の開始式で「口だけではなく、行動でもって、同盟を強化していこうではないか」という意味に当たる発言をしたことは、時宜にもかなっている。ところが、この発言の揚げ足をとるような形で、北沢防衛相は、12日の記者会見で、この発言に対して「現場の指揮官が政治や外交という高度な国家意思に言及している部分もある」と述べ、中沢連隊長に何らかの処分を下すことを表明し、驚かされるような素早さで実行されてしまった。中沢連隊長の発言は、褒められるに値しこそすれ、処分されるなど到底理解に苦しむ。仮に中沢連隊長が日米同盟のあり方について重大な変更を迫るような発言をしたというのであれば、確かに問題だが、そうではないことは明白である。

 中沢連隊長は、鳩山首相批判の意図を否定している。これ対して、北沢防衛相は、「意図がなくても、国家意思にかかわることを、指揮官として公式にいうことに対する規律の問題など、シビリアン・コントロールの観点から、きちっと整理する必要がある」と、シビリアン・コントロールを持ち出して来た。しかし、中沢連隊長の発言は、シビリアン・コントロールとは何の関係のないことである。同盟に関してのごく常識的な一般論を訓示しただけの話ではないか。北沢防衛大臣の発言は、シビリアン・コントロールを全く理解していないとしか言いようがない。シビリアン・コントロールの要諦は、民主的に選出された首相なり大統領が、軍事に関する最終決定を下し、最終責任を負うということである。したがって、そもそも「鳩山首相の発言を引き合いに出したわけではない」などという弁解すら、全く不要のことであって、本来は、堂々と批判して全く構わないのである。

 米軍の幹部などは、政権に対してずけずけと物を言っている。それを採用するか否かは国防長官なり大統領が決めることであり、あまりに政権の方針と異なることばかり言えば、更迭される。シビリアン・コントロールとはそういうものである。シビリアン・コントロールを曲解して処分を下せば、悪しき前例を残すことになる。「軍人」としての本分を全く逸脱していない正論を唱えた自衛官に対する言論封殺は、自衛官の志気を著しく低下させるおそれがある。それは、ひいては我が国の安全にも関わることである。したがって、鳩山政権の対応には強く異を唱える。また、今回の件により、我が国でシビリアン・コントロールについての正確な認識が広まる必要性が、改めて浮き彫りになったと言える。 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム