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2010-02-01 07:37

美辞麗句に世論の拒絶反応:鳩山演説

杉浦 正章  政治評論家
 「こんなに優しい人が何でこんなにいじめられるのか、悔しい」と民主党参院議員会長・輿石東が泣き言を漏らしたが、これで政治家が務まるのか。首相・鳩山由紀夫の施政方針演説にすべての全国紙が社説や記事で“拒絶反応”を示したのを、“いじめ”などという情緒的な言葉で片付けるべき事柄ではない。早速自民党幹事長・大島理森が1月31日、「あまりにも国民の意識を存じ上げない言い方だ」とかみついたのは、もっともだ。政治家の真の優しさとは、リーダーシップと具体的な政策目標の中に存在すべきであり、鳥肌の立つ美辞麗句を並べる中にはない。鳩山政治への信頼性が問われているのだ。24回も“いのち”という言葉を使って“守る”と述べるが、紛れもなく民主党政権ではない戦後政治が作り上げた世界一の長寿国の国民に、いまさら仰々しく使う言葉であろうか。鳩山はいつ新興宗教の教祖になったのか。

 会社でも自治体でも資質のない者がトップに座ると、高揚感が強く前面に出すぎて、平常心を外す。政治家ではもっとも必要な「平衡の感覚」(sense of proportion)に欠けることになる。側近も側近だ。ゴーストライターで官房副長官の松井孝治が、閣議で施政方針演説を涙を流して読み上げたと言うが、政府の最重要演説に陳腐な情緒は不要だ。一知半解の演出家による“演出”も不要だ。情緒や演出にこだわるのは、ポピュリズムの原点だ。ゴーストライターを選定するピントを外せば、行き当たるところは「バカの壁」であろう。「人間というものは、結局自分の脳に入ることしか理解できない」(養老孟司)のだ。鳩山演説は、歴代首相演説の中でももっとも真摯(しんし)さに欠け、言葉の遊びによる欺瞞(ぎまん)性が強いものとなった。鳩山の心中を分析すると、国民に対する見当外れの“慈しみ”の高揚感が極まって、何か自分が“神”か“仏”になったような心理状態に立ち至っているに違いない。“鳩山観音”など国民にとっては薄気味悪いだけの何物でもない。

  ガンジーの「七つの社会的大罪」を例えに挙げたが、すべてが鳩山にはね返る。「理念なき政治」は史上最大の赤字国債垂れ流し予算、郵政社長の天下り人事、暫定税率継続など憶面なきマニフェスト破棄。「労働なき富」は母親献金と“同志”小沢一郎の違法献金疑惑。「良心なき快楽」は若きころの不倫と略奪結婚。「人格なき教育」は政権の中核日教組の教育方針そのものだ。「道徳なき商業」はどこかの党の国対委員長のマルチ商法疑惑。「人間性なき科学」は雪女のような参院議員・蓮舫による事業仕分け。「犠牲なき宗教」は施政方針で打ち出した鳩山宗教“いのち教”そのものだ。各社社説は、朝日新聞が「演説の美辞に酔う暇なし」の見出しで、「マニフェストにせよ、資金の問題にせよ、逃げていては、政権を率いる首相の覚悟に疑問を覚えざるをえない」と不信感を表明している。読売が「危機打開の決意が足りない」の見出しで「今、いのちを言うなら、景気の二番底を心配したり、解雇の不安に苦しめられたりしている人々に、十分目配りする必要があった」と指摘し、「言葉だけが走って、政策内容に明確さを欠く」と手厳しいものとなっている。

 施政方針演説で重要なのは目標を掲げて国民に希望とやる気を与える牽引力だ。その点最近支持率が下がっているものの、鳩山の前日に米大統領・オバマが行った一般教書演説ははっきりした目標を掲げ、少なくとも誠実だ。「私は米国が2番手になるのを受け入れない」と大目標を掲げ、「5年間での輸出倍増」など、目標値を多く提示した。これに比べて鳩山は不況脱出への処方箋、財政再建策など忘れ去ったかのようだ。元財務相・与謝野馨による「国債発行残高をサラ金地獄に陥らせてはいけない」といった危機感などゼロだ。政権ツートップの「政治とカネ」の問題にどう責任を取るのかなど誠実さがみられない。この首相は通常人が持つ倫理観があるのだろうか。マニフェスト破たんへの弁解すらない。こじれた日米同盟関係修復への工程もない。まるで首相としての責任を放棄して、無責任な猿芝居の脚本をそのまま読み上げたような施政方針演説であった。今日からの国会代表質問に格好の材料を提供しただけだ。
 
 
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