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2009-12-29 10:19

外国人非熟練労働者の受け入れは厳格に制限すべき

玉木 洋  大学教授
 本フォーラムで現在政策提言が検討されている「外国人受け入れの展望と課題について」について、一言意見を述べさせていただきたい。外国人受け入れを大幅に拡大すべしとの意見の理由としては、(1)労働力不足問題の解決の必要性と(2)国際化・多文化共生への適応の必要性の2つが、大きなものとしてあると思われる。しかし、いずれの理由を挙げるにせよ、それを外国人受け入れ、とりわけ永住する移民の受け入れによって解決すべきとする根拠は弱く、むしろ多数の移民が増加することによるマイナスの方がはるかに大きいのではないかと思われる。移民受け入れ推進論の方は、労働力不足の問題を移民で解決する必要性を強調し、我が国の労働人口の急減により不足する労働人口確保のために非熟練労働者を含む移民の大幅増加が必要と言われる。しかし、労働力は必ずしも不足していないし、また不足するとしても基本的には移民によらず、自国民でまかなうとの原則を崩すべきではない。

 当面についていえば、失業率が高く、求人倍率が低い現在の状況はまだしばらく続くと思われる。しかし、将来的に少子高齢化に伴って労働人口の割合が減ってゆくことに問題があるなら、高齢者の就業参加の拡大により対応すべきであると思う。全世界にとって必要な労働力を全世界の労働力でまかなわざるをえないのと同様、日本にとって必要な労働力は日本の労働力でまかなうべきであり、人口構成の高齢化が労働力不足の原因なら、高齢者の就業参加拡大でまかなうことが適切なのである。さらに長期を展望すれば、出生率2以上を目指した早急な出生率向上対策が必要である。もちろんそれは現在の社会情勢からすれば容易ではないが、「結婚をしなくてもよい」「子供を作らなくてもよい」「育てなくてもよい」という風潮を改め、また「子供を産み育てることが、経済的にも社会的にも成り立つ」という環境を整えれば、出生率向上は不可能ではない。

 仮に出生率が十分向上しないからといって、移民を増やせば、その後将来できあがって行く日本という国は、今日本に住む私たちやその子孫の国ではなく、新たに受け入れた移民たちが作りあげる別の国になってしまう。また、短期的には3K的職場などで廉価で貴重な労働力を提供してくれるはずの外国人の方々も、永住することとなれば、次第に元からの日本人と同様の労働条件・給与水準等を求めることになり、それは当初の移民受け入れの目的に沿うものではなくなる。未来永劫都合の良い労働力として外国の方を使おうなどという考えがあるとすれば、それは非人道的であり、非現実的でもある。このように、大量の外国人受け入れが、我々の社会の労働力人口減少の問題を長期的に救ってくれることとはならない。
さらに、多数の外国人の長期居住は、その子孫の教育や就職の問題を招き、やがて彼らの戻る国がなくなり、大きな問題を引き起こす。このことは既に日本でも起こっているし、海外でも一部の国では非常に深刻な事態となっている。日本にしかいるべき国を持たず、しかし日本で働く十分な能力もなく、日本文化にもなじめない多数の若者が育ってしまうとすれば、その人たちにとって本当に不幸なことであり、そのような人たちを作り出す危険性を避けるのが、私たちの義務であるともいえる。しかし、そのような若者は、外国人受け入れ制限を近年緩めた結果、既に発生しつつあるのである。

 多文化共生の必要性や可能性も言われるが、それぞれの文化が尊重された上で、共同で活動したり、接点を持ったりするような場合には、多文化が共生しなければならないのは当然であるが、将来的に困難な事態が生ずることが予想されるような多数の非熟練外国人労働者の受け入れを好んでする必要性までは、説明できない。それぞれの国、それぞれの民族には、長年かけて形成されてきた文化があるのであり、我が国の経済力がまだ相対的に高いのをよいことに、金の力で異文化の日本に連れてくることは、その人たちに対して失礼な面もある。彼らも本来はその自らの風土においてより幸福な生活を築く権利があるのだから。現在他民族が混合していたり、移民が多かったりという国は多数あるが、それらの国々は必ずしもそれを望んで、そうなったものではなく、歴史的な(必ずしも望ましくない)経過によって今日そうなってきているのである。例えば、先住民を駆逐して移民の国として建国したために、多数の民族による移民国家であることを否定できない国、植民地時代の国境設定で建国されたために、複数民族により成り立っている国、かつての植民地・宗主国関係から多くの移民を持つこととなっている国などである。

 以上のような理由により、非熟練労働者の長期在住を想定した外国人受け入れは望ましくないと考える。他方、研究、教育、技術開発、ビジネスといった面では、必要な人的交流は迅速・大量かつ円滑に行われるように努めるべきであろう。それに伴う居住は積極的に認める必要がある。しかし、以上に述べたように、そうではない非熟練労働者については、取り扱いを別にすべきである。永住や帰化については、従来どおり経済力を十分持ち、日本社会をともに構成するにふさわしいと認められる人に限るという方針で臨んでいく必要があると考える。
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