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2009-12-10 16:13

「対等な日米関係」の構築に向けて

吉田 康彦  大阪経済法科大学客員教授
 私の国連勤務中、日本人記者が競ってブトロス=ガリ事務総長(当時)にインタビューしたが、彼らは「日本は憲法改正しても自衛隊を海外派遣すべきではないか」「安保理常任理事国として軍事的貢献すべきではないか」と誘導尋問をくり返した。するとガリ氏は「その通り、カネだけでなくヒトを出すべきだ」「常任理事国になったら当然、軍事的貢献をすべきだ」と答える。紙面では「日本は憲法改正すべし」「ヒトを出して、血も流せ」という活字が躍る。メディア主導の世論形成だった。

 それと同じ現象が普天間基地移転問題をめぐる日米関係で横行しているようだ。米政府高官は、鳩山首相の発言のぶれや優柔不断ぶりを指摘する誘導尋問にまんまと乗せられて、鳩山批判を開陳する。米国人はストレートにものを言うから、それが活字になると「対日不信感を露わにする米高官」「危機を迎える日米関係」という見出しにエスカレートする。歴史家ジョン・ダワー流にいえば、日本人は「敗北を抱きしめて」対米コンプレックスから抜け出せず、米国に楯つけばたちまちその逆鱗に触れると思いこんでいるのではないか。

 日米関係は重層的で、多岐にわたり、普天間だけで動いているわけではない。普天間基地放置の責任は、1996年の橋本内閣当時の日米合意以来、歴代自民党政権にもある。「見直し」は民主党のマニフェストであり、県外・国外移転は民主党中心の連立内閣の合意事項だ。鳩山首相が即決できないのは、民主主義のプロセスとして当然である。ブッシュ前大統領が「有志連合」を率いて、国連安保理の授権決議のないままイラクに侵攻した時、小泉首相は自衛隊のイラク派遣を即断即決した。北朝鮮の“脅威”が有無を言わせぬ大義名分となった。対照的な行動をとったのがスペインだった。直後の総選挙で与野党逆転し、イラク派兵反対を主張していた社会労働党が政権をとるや、4000人規模のスペイン軍部隊をただちにイラクから撤退させた。それが民意だったからだ。米西関係は一時的に緊張したが、いまは良好である。

 日米間の合意をくつがえす結果になっても、それが民意の反映であれば致し方ない。「対等の日米関係」構築は、言うは易く、行うは難しい。鳩山内閣の試行錯誤がつづくのは致し方ない。われわれ国民が民主党圧勝に導いたのだから、気長に見守るべきだ。そうした中で、岡田外相の日米「核密約」の暴露は、「非核三原則」が虚構だったことを実証した点で、評価されてよい。今後は「三原則」を名実ともに遵守し得る、整合性ある非核政策の実践が求められる。これからが岡田外交の正念場だ。これも「対等な日米関係」構築に向けての一里塚である。
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