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2009-12-03 13:12

教科内容や授業時間数もまた重要である

玉木 洋  大学教授
 「質の高い教師を確保しよう」という大蔵雄之助氏の主張に、まったく同感であるが、ここでは、同時に「教科内容や授業時間数もまた重要である」ことを指摘したい。「受験偏重、知識詰め込み偏重、偏差値教育がいけない」といった言葉がマスコミをにぎわす状況を背景に、「ゆとり」「生きる力」のスローガンの下で学習指導要領に定める学習内容の削減が繰り返されてきた結果、昭和40年代と比べて現在の主要教科の学習内容は約半分になっている。また、これと並行して、授業時間数についても削減が行われてきた。授業時間数の削減は、単に土曜日の4時間分の削減だけでなく、総合学習等の増加により、特に基礎教科において大幅に行われていることに留意する必要がある。この結果昭和40年代であれば週6時間程度行われていた英、数、国といった科目の授業時間数が、半減に近く削減されている。入れ物に詰め込みすぎで余裕がないなら、入れ物の容量を増やすか、中身を減らすかのどちらかである。教育においても、詰め込んで、余裕がないなら、入れ物である授業時間については増やすことが必要なはずである。

 それなのに、現実には、逆に授業時間を減らしてしまい、学校の授業だけに頼る生徒児童は、十分な説明を受けたり、十分な演習の時間を授業中に持ったりすることができず、授業外の学習塾等で勉強するといったことになってしまっている。また、科学技術を含め、世の中全体が進化、発展する中で、学習内容を増やす必要が生じこそすれ、減らすことが良いはずはないのだが、「ゆとり」のための授業時間削減に対応可能にするため、学習内容が大幅に削減された。削減開始当初は、なくても何とか差し支えなく教育できる範囲のものを削減していたが、ゆとり教育完成段階では、教育内容として十分足りるかどうかという観点よりも、削減が至上命題となって、もとの半分程度まで内容が削減されてしまった。しかし、教える知識量が半分になったから半分の時間で済むというものでもなく、例えば英語の力をある程度身につけようとすれば、相当教員が優れていたとしても、教え方に工夫をしたとしても、5-6時間で指導していた教科を3時間で指導して、それなりの成果を上げることは非常に難しい。英語の学習などは、授業時間の量が非常に重要である。

 外国語の入門の学習を、1週間に150分だけ、それを3回に分けて少しずつやったところで、忘れたころに授業が来るというようなものである。しかも、「ゆとり」路線と同時に、英語の学習については、「受験偏重詰め込み式の文法知識よりも実践的・実用的な会話やコミュニケーションを重視」という流れが非常に強化されてしまったために、例えばハンバーガーショップでの買い物のやり取りを、場面を漫画で見ながら学ぶ、といったことに時間が使われ、第二言語の効率的な学習上重要な文法を集中的に身につけるということが、非常に軽視されており、また単語力の基礎があってこそ、実践的でもあり、学習効果も上がるのに、学習する単語数も著しく減ってしまったために、基礎的な英語力が非常に身につけにくくなっているという状況となった。その後も英語の重要性は叫ばれて、小学校への導入ということになっているが、日本語力もおぼつかない時期に英語の学習をするのであれば、母語と同様にバイリンガルを目指してというのも一方法であるが、大多数の児童にとっては、母語の形成を阻害する危険がある。

 他方、第二言語としての効率的な習得には小学生は早すぎる時期であり、週2時間程度のお遊び英語学習は、英語心理的な壁を取り除くのに多少役に立つかもしれない程度の成果しか期待できず、そのコストとの比較としては、全く無駄なものとなるであろう。むしろ、中学校での英語の学習時間や教科内容の削減を反省し、中学で授業時数を最低週5時間に戻すことが必要であろう。算数、数学についても計算練習等をする時間的余裕がなくなってしまい、削減された内容でも、なお授業時間内にこれを多数の児童生徒に身につけさせることが困難になってしまっている。さらに、画一性批判、自主性尊重、多様化、といったことから、選択科目も増加し、例えば理科や社会では必修科目がほとんどなくなってしまい、医学部学生で高校の生物の履修経験がない、ということに代表される、基礎的な学習範囲が狭すぎるという問題が生じている。これらの問題は、教科学習のための授業時間が確保できないということと連動して、発生している問題である。このようなことを踏まえて、授業時間数の確保についても、重要な問題として認識され、議論され、改善されていくことが必要ではないかと思う
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