国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-11-29 03:45

事業仕訳による改善点を冷静に考えよう

玉木洋  大学教授
 「事業仕分け」について、私はその一部分しか見ていないのではあるが、疑問を感じた点がある。役人の仲間内の不透明な無駄遣いをガラス張りの議論によって削るという点で評価されるべき部分が少しはあったかもしれないが、むしろ、大局や本質を見ずに、わかりやすい効果が見えないというだけで、きわめて簡単な議論によって削った、という面が多かったともいえないだろうか。月刊誌『外交フォーラム』の国費買い上げの件は、比較的無駄の見えやすい件かもしれないが、政府として提供すべき情報、知らせるべき情報の広報のために、まったく無償で、最初から政府の経費で広報資料を作ることもありうるところ、「購入してくれる人も少しはいる」ということで、「有償にしたうえで、政府が買い取る」ことについて、それだけで「まったくおかしい」ということはないようにも思える。

 私が一部報道で見たのは都心部の官舎の件についての議論だが、これは、たとえば今日現在でも為替相場の激変で緊急の対処が必要ということもある。もちろん災害もあれば、テロもあるかもしれない。その時に国の中枢部が緊急の対処をしなければいけないのに、1時間も1時間半もかけて通勤するのではなくて、近くに官舎を用意することに合理性がない、と簡単に断言することにも無理があるようにも思える。民間企業でも、工場長は工場にすぐに駆け付けられる場所に社宅を用意するということもあろう。仕訳人の中には、「なぜ公務員だけに官舎が」というような発言をする方もあったが、業務上必要な宿舎については、雇い主が社宅や相当な額の住居手当の支援をするというのは、民間でも特に珍しいことではなかろう。もちろんそういうものがない企業もあることは承知している。

 科学技術予算や防衛関係予算についての様々な指摘は典型例であるが、大局観や専門的知識が十分な人たちによって合理的な判断がなされたのかどうかについては、大いに批判もされているところであり、実際今回の仕分け人方式による議論の適切性や判断の内容の合理性については、疑問の余地がないとは言い難いように思える。

 このような審査の実体部分に加えて、もちろん、予算案作成権のある内閣でもなければ、その審議・承認権のある国会でもない、仕分人たちが実質的に権限を持つというこの方式自体に、それが憲法上に基づく民主的な政治・行政の方法であるといえるか、という疑義も十分に提起されうると言える。これまでの予算決定過程にわかりにくさなどの問題点があった部分を全く否定するつもりはないが、その反動だからといって、ここまですることが妥当なのか、そしてこれまでよりほんとうに改善になったのかどうか、冷静に判断する必要があるのではないだろうか。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム