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2009-11-24 10:04

オバマ政権の「アジア回帰」の狙いはなにか

鍋嶋 敬三  評論家
 オバマ米大統領は11月のアジア歴訪で「米国はアジア太平洋国家として指導力を強化する」と宣言(東京でのアジア政策演説)、ブッシュ政権時代のアジアとの疎遠な関係を払拭する政策転換を鮮明にした。東アジア・サミットへの正式参加を求めて名乗りを上げ、アジアでの存在感を高めようとする姿勢が明確になった。鳩山由紀夫首相の唱える「東アジア共同体構想」にも一石を投じた形である。オバマ大統領はシンガポールでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議を軸に日本、中国、韓国のほか、東南アジア諸国連合(ASEAN)と初の首脳会議に臨んだ。7月にASEANの基本条約である東南アジア友好協力条約(TAC)にクリントン国務長官が署名したのは東アジア・サミットに向けての布石だった。

 米国がアジアとの関係強化に乗り出した背景は、第一に、巨大な市場としてのアジアを重視しているためだ。米製品の輸出拡大による景気回復、雇用創出は米国の経済成長に欠かせない。第二に、地域で影響力を強めて来た中国の存在である。東アジア共同体作りで中国はASEAN+3(日中韓)の枠組みを基本として主導権を握りたい。米国としては中国を警戒するASEANを取り込んで、アジアで影響力を回復し、米国の外交戦略で死活的に重要なアジアでの勢力バランスが、中国に有利にならないように腐心している。オバマ大統領の「アジア回帰」は、中国と市場の両にらみの戦略と言えるだろう。

 大統領はアジア関与の基本軸として(1)揺るぎない日米同盟、(2)中国と現実的な協力関係を深め、封じ込め政策は取らないこと、を明らかにした。中国は世界最大の米国債保有国であり、米国は中国と安定した関係を維持せざるを得ない。米中共同声明で地球規模の問題で協力強化をうたい「世界の安定と繁栄に共同責任を負う」と明記した。協調を重視する一方で通商、為替、人権などの対立点についてはあえて突っ込まない結果に終わったのも、安定した関係に優先順位を与えたためだが、中国の強気の姿勢に押された印象が濃い。

 鳩山首相はシンガポールでのアジア政策講演で、東アジア共同体構想の推進を提唱した。首相は「アジア外交の重視」を宣言、「その柱が共同体構想だ」と言う。アジアの重要性を取り上げる中で、いきなりASEAN+6(日中韓、インド、豪州、ニュージーランド)の国内総生産(GDP)が世界の約23%を占めると例示した。10月の日中韓首脳会議(北京)で首相は「共同体構想の核は日中韓だ」と述べ、3カ国主導の印象を与えた。1ヶ月の間になぜASEAN+3の枠組みから+6、つまり東アジア・サミット・グループの重みを強調するようになったのか説明はない。東アジア・サミットへの参加意欲を明確にしたオバマ大統領に歩調を合わせようとしたのだろうか。共同体作りの主役を任じる東南アジア諸国はとまどうばかりだろう。
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