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2009-11-06 09:24

(連載)EUの温室効果ガス削減交渉術を見習うべきだ(2)

高峰 康修  岡崎研究所特別研究員
 日本も一応は「他の主要国の関与を前提として」という条件らしきものを付けてはいるが、25%という数字だけが独り歩きしてしまっている。こういう条件は、EUのようにもっと明確に打ち出しておくべきだったのである。鳩山首相は、日本が高い削減目標を掲げることにより交渉を進ませることができると、非常にナイーヴに考えたようだが、今回のEUの対応を見れば、その甘さは明白であろう。我が国が表明した「世界一」厳しい削減目標をEU諸国は絶賛したが、それに追随して「30%」に引き上げるということはしなかったし、我が国がその方向でEUに強力に働きかけたという話も聞かない。

 EUの現在の目標20%削減の内訳を見てみると、廃棄物処理法の変更による自動的達成3%、旧共産圏などでの老朽化発電所閉鎖等による達成済み分8%など、11%分が自動的に達成される性質のものであり、域内努力(真水)や排出権購入などの実体を伴う行為による削減量は、事実上10%前後である。日本の「25%」は内訳が全くはっきりしていないが、EUとは全く異なり、自然達成される割合が10%以上もあるなどという都合の良い状況にないことだけは間違いない。そもそも、内訳が明確でないにもかかわらず削減目標の数値だけを出したのが決定的な誤りである。日本と比べてはるかに甘い目標のEUが、色々と理由をつけて目標削減を見送っていることに留意すべきである。また、交渉における「削りしろ」「伸びしろ」を全く考慮せずに「25%」という数値を唐突に表明した点も、交渉術として拙劣極まりない。日本は、以上のような諸点において、是非ともEUの巧妙さに見習うべきである。

 具体的には、前政権が打ち出した2005年比15%削減(1990年比換算では8%)に立ち戻ることである。前政権による中期目標はすべて真水である。言うまでもなく精緻な試算が大前提だが、私見では、これに、排出権購入やクリーン開発メカニズムなどによる削減、さらに森林吸収分を足し上げて、「1990年比15%削減」程度というのが妥当なところなのではないか、という感触を強く持つ。この場合、EUと同様に「他の先進国が同程度の義務を負う」ことを条件に「25%」に戻すとすればよい。また、中国やインドなどの主要排出国が何らかの削減目標にコミットすることも条件に加えれば、なお結構である。

 COP15では、拘束力を伴った具体的な合意は絶望的となっている。今こそ、根拠のない「25%」という旗を下ろす好機である。このまま、日本の削減目標が「世界で最も野心的」である状態を継続しても何もメリットはない。もちろん、国際公約である「25%」の旗を下ろすことによる印象の悪化や交渉力の低下はあるかもしれないが、一応は前提条件を付けているのだから、それを前面に出して押し切るべきであろう。このまま「25%」で突っ走れば、行く先は、未達成という最大の「不名誉」か、あるいは無理して達成できたとしても、国民負担の著しい増大である。(おわり)
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