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2009-11-04 14:19

(連載)ドル基軸体制の動揺と核拡散危機の増大(3)

足立 誠之  元インドネシア中央銀行顧問
 USCCの2008年議会宛年次報告書は、中国企業による拡散行為に大きな変化がうまれつつあることを記しています。報告書はまず中国当局が拡散防止のため好ましく協力的であることを記し、今まで拡散行為を続けてきた国営企業もその防止に動き出したとしており、その背景には制裁により金融機関などに深刻な影響が及ぶことを懸念したものであると述べているのです。上に述べたことが正に進行しつつあることは間違いないでしょう。長年続いた中国企業による大量破壊兵器と運搬手段に係わる懸念国への拡散はほぼ決着がついたといえるでしょう。その他にも中国外交に変化がみられます。

 例えば、イランの核開発問題に関して、中国のかつての強いイラン寄りの姿勢が最近後退しているのがそうであり、スーダン問題も同様です。スーダン問題は日本では殆ど報道されてきませんでしたが、簡単に説明しますと、アラブ系のスーダン政府の支援を背後に、アラブ系民兵がスーダン南西部のダルフール地方に住むアフリカ系住民を大量虐殺しているという問題です。スーダンの石油利権を持つ中国は、このアラブ系スーダン政府を武器輸出援助などで全面支援して来ました。そして国連がダルフールでの虐殺をやめさせるためスーダンに対する経済制裁を検討するのですが、その度に中国が拒否権をちらつかせ、それが頓挫してきた経緯があります。然し、その後中国の態度は微妙に変化しており、徐々に国連の関与がつよまっているのです。こうした一連の動き、就中中国企業による拡散行動が収まりつつある背景には、この大統領令の存在があり、それが米ドルを唯一の基軸通貨とする今の国債通貨体制をベースにしていることは言うまでもありません。

 我国では核やミサイルの拡散は、話し合いにより国際的な協定が結ばれれば、それで実現すると考えられています。然し以上に見てきたとおり、現実の国際政治は必ずしもそうではないのです。まずそうした協定を結ぶためには、それなりの要因や力が必要です。そしてそうした国際協定を実効あらしめるためには、担保するもの、つまり力が必要であり、ドルを基軸通貨とする国際通貨体制はその有力な担保力だったのです。昨年のリーマンブラザースの破綻を契機とする世界不況の原因は、アメリカの財政・金融政策の誤りによるものであり、そうした事を可能としたのは、米ドルが唯一の基軸通貨であったが故とされています。こうしたことから、「ドルを唯一の基軸通貨とする国際通貨体制は改められることが必要」との声が高まっています。冒頭に述べた中国の人民銀行の周小川総裁の論文もそこを突いたものです。

 そして中国は、人民元を貿易決済通貨とする政策を進め始め、香港で人民元建ての国債を非居住者に売り出しています。中国が人民元を国際通貨として育成しようとしていることはあきらかでしょう。人民元がそれなりの国際通貨となった場合には、核やミサイルの拡散に逆戻りする可能性を孕んでいるというのは、決して言い過ぎではないでしょう。我国では国際通貨問題は専ら経済問題としてのみ議論されています。然し国際通貨問題は、優れて国際政治及び軍事問題なのです。国際通貨体制変革の議論は、こうした核拡散を抑止する力の担保を無視した議論であってはなりません。(おわり)
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