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2009-11-03 11:33

(連載)ドル基軸体制の動揺と核拡散危機の増大(2)

足立 誠之  元インドネシア中央銀行顧問
 2005年6月、ジョージ・W・ブッシュ米大統領は、大統領令(Executive Order)13382を施行しました。内容は、大量破壊兵器及び運搬手段の拡散に携わった個人、組織及びそれを金融その他の手段で幇助した者、あるいはそうしたことを企てる者に対して、財務長官に制裁を実施する権限を与えたものです。これが実際にどう機能するかは、正に注目すべき事柄でした。3ヶ月後の9月、マカオにあるバンコ・デルタ・アジアに取り付け騒ぎがおきました。原因は、同行が北朝鮮の偽札関連のマネーロンダリングに加担したとして、米財務省が2001年制定の愛国法(Patriot Act)に基づく制裁を発動したことに端を発したものでした。注目すべきはその制裁方法が3ヶ月前に制定された大統領令の規定を想起させるものであったことです。

 米財務省の制裁は、多くが水面下で行なわれたものですが、推察すればバンコ・デルタ・アジアがコルレス銀行に持つ米ドル勘定を凍結することを狙ったものであることは明らかです。同行は、中国の銀行、多分中国銀行に米ドル口座を保有していた筈です。もしその口座が中国銀行のニューヨーク支店に置かれていたとすれば、同口座は凍結されることになりますし、又その口座が中国銀行の中国内支店に保有されていれば、その支店が中国銀行ニューヨーク支店に保有する米ドル口座が凍結される可能性が浮上します。

 実際には、米当局と中国当局そして中国銀行の間で水面下での折衝が行なわれた筈であり、仄聞するところでは、中国銀行が米当局に協力したとされます。仮に一方的に口座凍結が強行されれば、中国当局は勿論、中国自体、そして世界経済にまで波及するほどの影響を与えたはずです。米ドルが世界唯一の基軸通貨であることにより、アメリカはこのような恐るべき力を行使できるわけです。勿論それはアメリカが世界第一の軍事大国であることと無縁ではありません。

 大統領令について考えれば、もしNORINCOが拡散行為を行い、それが米当局の知るところとなれば、米財務長官は制裁を実施する方向に動き出すでしょう。そして、NORINCOの取引銀行である中国銀行やその他の銀行も制裁対象に含まれることとなるはずです。仮に中国銀行の在米資産にたいして凍結措置が採られれば、中国銀行のみならず中国そのものが致命傷を受ける筈です。見方によれば、これは核兵器以上の脅威と言えるでしょう。中国当局は、今迄一貫して拡散防止に協力を約してきましたから、証拠を突きつけられ、制裁をちらつかされれば、屈服せざるをえないでしょう。(つづく)
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