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2009-10-25 22:25

政権交代で復活する既得権益

河東哲夫  自由業
 8月末、日本では選挙の結果、与党が交代した。その基本には、1985年の円切り上げ(プラザ合意)以来、内需だけでは十分稼げず、大企業は中国をはじめとする外国に工場を移してしまったことがある。これによってGDP、税収は伸びなくなったし、雇用は失われ、賃金水準は全然伸びなかったのである。小泉首相は、社会保障の削減や郵便局の民営化・合理化、地方での公共インフラ建設の削減などを行った。これによって財政赤字を減らすとともに、政府支出ではなく民間の活力を経済成長の主導力にしようとしたのである。だがこれによって利益を失った者たちは自民党を恨み、民主党支持に走ることとなった。小沢民主党幹事長は、数年前から地方を巡回しては、自民党に不満を抱くにいたった既得権益層を民主党支持へと変えていった。こうして自民党は、経済不振と改革による生活悪化の責任を負わされて、下野したのである。だから民主党を支持した層は右から左まで、改革志向から既得権益層まで多種多様であった。大都市の中産階級はこの数年、自分達の気持に沿わない首相が出てくることに不満を持ち、「自分達の手で政権を選ぶ」実感を得たがっていた。他方、小泉の改革によって既得権益をおかされた保守層も、民主党支持にまわっていたのである。

 民主党はこの8月の選挙で、衆議院では絶対多数を得たが、参議院では過半数にわずかに足りないままだ。だから、左派の社民党、右派の国民新党の支持を得ないと、参議院で過半数を握って法案を通すことができない。次の参院選挙は来年夏だが、民主党はそこで過半数を得ることを当面最大の政治課題としている。だがそれまでは、左派イデオロギーに基づく反米的立場を貫く社民党、右派の既得権益層を基盤とする国民新党と連立政権を維持せざるを得ない。鳩山総理は、民主党の内部で絶対的立場を有しているわけではない。8月の選挙の勝利の功労者は小沢幹事長で、10月26日から開かれる国会での戦術を指揮するのも彼だと言われている。「国家戦略担当」の菅副総理、岡田外相、前原国土交通相は以前民主党党首を務めたことがある。まるで明治維新直後のように、彼ら「元勲」達はめいめい勝手な発言をし、それらはよく調整されていないように見える。そして、国民はまだそのような民主党政権に対して寛大な気持ちを失っていない。鳩山政権は、国民にとってみれば「自分の手で選んだ」政権で、この政権を通じて国民は自ら政府を運営している気持ちになれているのだ。

 一部の新聞は民主党政権への批判的態度を隠さないが、今民主党政権を批判すれば、国民を敵に回すことになるだろう。この「蜜月」は、通常国会が本格化する来年2月頃までは続くのではないか?革命や政権交代では、大衆はその熱狂を利用されるだけで、そのあとには既得権益勢力がまた権力を簒奪する例が多い。フランス革命しかり、1991年のソ連崩壊しかりである。日本でも、小泉総理による郵政民営化によってその勢力を弱められていた郵政労組が、先週の郵政関連4企業の再統合で実質的な再国有化を実現し、勢力回復の機運にある。もともと民主党の大きな基盤は労働組合にあるのだ。しかも、統合された郵政の新しい社長は元大蔵次官であり、「官僚主導でなく、政治主導で」という民主党のこれまでの政策に反する人事が行われたのである。小泉自民党が、都市の中産階級という政治的には頼りにできない層(きまった支持政党を持たず、選挙のたびに気分で支持政党を変える)にその軸足を置き、既得権益層を敵に回したことが、今回の政権交代の背景にある。

 繰り返すが、国民は世直しを求めて政権をひっくり返すが、実際には既得権益層に利用されるだけという、古い革命の公理が今回も機能しつつあるのでないか? 医師会など、これまで自民党の票田だった圧力団体は、次々に支持を民主党に切り替えつつある。恵まれた終身雇用の、大企業・公営企業の従業員たちが作る労働組合も含めて、既得権益層による政治が、日本に復活しつつあるのでないか?日本人の生活を再び良くする方法は、経済を良くすることにしかない。雇用が海外に流出しすぎたので、中小企業を中心に新しい産業を国内に起こすことが必要だ。それは規制を緩和し、若者たちの年金負担を軽減することにより、社会の活力を解放する方向で行うのだ。経済が良くならないゼロサム社会では、民主主義は果てしのない利権の奪い合いに堕落する。日本で待望された「二大政党制に基づく政権交代」は8月の選挙で実現したが、これも効果を生まないことがわかるだろう。来年春頃には、日本でも治安状況が悪化して、昭和前期のようなテロが起きやすくなるのではないか。他方では、一度豊かになった国の富というものはそう簡単には減少しないので、日本経済には実はもっと余裕があるという見方も可能だ。まだ社会が荒れてくる兆候は見えない。どちらになるのか、自分にはまだわからない。
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