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2009-10-23 10:11

日米同盟の危機招く鳩山政権

鍋嶋 敬三  評論家
 米国のオバマ政権は鳩山由紀夫政権が日米同盟関係の発展に真剣に向き合う意思が本当にあるのかとの疑念を深めたことだろう。ゲーツ国防長官来日の最大の焦点となった沖縄の普天間海兵隊飛行場の移設問題で米軍再編のロードマップ(行程表)の早期実施を求めた米側に対し、鳩山首相が名護市長選挙が予定される来年1月以降に判断を先送りする意向を明確にしたからだ。11月12日のオバマ大統領訪日までには実施に向けたゴーサインを出すことは不可能になった。来年、日米安全保障条約50周年を迎える日米同盟関係が円滑に機能するかどうかの岐路に立たされている。同盟管理についての危機意識を欠いた鳩山首相の責任は重大である。

 ゲーツ長官は北沢俊美防衛相と会談後の記者会見で「普天間の代替施設は再編ロードマップのくさび(lynchpin)だ。代替施設なしにグアムへの移転はない。グアムへの移転なしに沖縄の軍(基地)の統合や土地の返還もない」と言い切り、合意通りの計画実行を迫った。普天間を含む沖縄米軍基地の再編は日本本土や米国の米軍も巻き込んで作られたパッケージであり、1996年以来13年間にわたって米国の民主党、共和党両政権を通じて日本政府と練り上げた計画だ。今年2月には日米両政府が海兵隊8000人のグアム移転のための協定に署名、米議会でも関連予算案が上程されている。日本で政権が代わったからといって合意を履行しないことになれば、米国には同盟国と思っていた日本の背信行為と映る。

 岡田克也外相がゲーツ長官に核の先制不使用について「よく協議していきたい」と述べたのは米側を驚かせたことだろう。長官は「抑止の柔軟性は必要である」と答えたが、日本の安全保障は米国の核の傘によって守られていることを忘れてはいないか、との厳しい目がうかがわれる。ゲーツ長官は鳩山首相との会談で、「太平洋の両側でチェンジ(変化)が起こったが、一つだけ不変なのは日米同盟関係の重要性だ」と強調した。オバマ政権がことあるごとに「日米同盟は米国のアジア安保政策の礎」と強調しているのは、日米同盟が揺らげば米国のアジア太平洋戦略に悪影響を及ぼすと考えるからだ。中国の急速な軍拡、北朝鮮の核・ミサイル開発を見ただけでも、日米同盟の重要性ははっきりしている。直接の脅威を受ける日本にとって「拡大抑止」の重みはなおさらだ。

 政権公約(マニフェスト)にこだわる鳩山首相は計画以外の移設先の検討も表明した。政権内の意思統一もできていない。首相はゲーツ長官に対して「日米同盟を一層深化させていく」と語ったが、合意実施の決断を先延ばしする首相の言葉を米国が真に受けるだろうか。国連総会演説で「東アジア共同体」構想を打ち出した首相に対して、米国からは「米国外し」の懸念が噴き出した。鳩山首相は今、危ない綱渡りをしている。国連安全保障理事会の常任理事国入りをはじめ、対中国、北朝鮮などアジア外交で米国の支持を得なければ、日本の外交的損失は計り知れないことを鳩山首相は肝に銘じるべきである。
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