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2009-10-14 07:40

インド洋給油中止は、日本の国際貢献に打撃

杉浦正章  政治評論家
 内政ばかりか外交においても展望と代案なきままの「中止」が続いている。インド洋における給油活動は1月以降明らかに停止される方向となった。42か国が参加する国際治安支援部隊(ISAF)では、多数の犠牲者を出してテロとの戦いを展開する中で、日本だけが海上支援の戦線を離脱する形となる。国連の謝意決議を無視するかのようにである。営々と積み重ねてきた国際貢献に痛打となり、旧社会党の「一国平和主義」を感じさせる方向転換である。米国は明らかに代償を求めてくるだろう。しかし国際社会を納得させられる代替案は示されていない。湾岸戦争で多額の代償を払わされて、多くの国民が屈辱を感じたが故の苦肉の策が「給油」であるのだ。

 延長中止に当たって外相・岡田克也の弁は、いささか狡猾に過ぎる。理由として、臨時国会への延長法案提出が間に合わないことと社民党の反対を挙げているが、延長法案は間に合わそうと思えばできることであり、社民党の反対はもともと分かりきっていたことだ。別に理由があることになるが、おそらく岡田は米側が給油中止を認めると判断したに違いない。もともと国務相・クリントンは9月の岡田との会談冒頭で、記者団に「日米関係は非常に幅広く深いもので、一つの問題で定義づけられるものではない」と述べ、中止を事実上容認するとも見える発言をしていた。これは14日の各紙紙面で駐日大使・ジョン・ルースが述べている言葉とも符合する、ルースは給油を期待しながらも「アフガニスタン・パキスタン情勢に貢献する方法はたくさんある」と述べている。同大使の「普天間移設は現行合意が最善」とする主張とは大きくトーンが異なる。米国は給油と普天間を明らかに分けて考えている。

 米国の柔軟姿勢の背景には、岡田が“密約”的な代案を既に提示しているかも知れないことをうかがわせるが、全く漏れていない。政府は官房長官・平野博文が「農業の再興、民生の支援」、岡田は、タリバンの元兵士に対する職業訓練への資金援助などを挙げているが、民政支援だけで米国が納得するだろうか。米軍は増派に莫大な費用がかかるのであり、下手をすれば湾岸戦争とおなじ120億ドルも“強奪”されることになりかねない。民政支援も底なし沼のように吸い取られるだけだ。

 10月14日付の全国紙の論調も、朝日をのぞいて撤退に批判的だ。読売は「アフガン支援、給油活動継続の道を探れ」との見出しで「給油活動を続けることが、最も理にかなった人的貢献策ではないのか」と主張。産経も「日本はテロとの戦いから脱落する。アフガンでの対テロ戦争に苦悩する米国の足を引っ張り、日米同盟を損なうことになる。国益は維持できない」。毎日は「給油活動もアフガン支援の選択肢の一つであると主張してきた」として、「やめる場合はより効果のある支援策を打ち出さなければならない」と主張している。朝日は“大好き”な民主党をどう支えるか苦労している。というのも過去に「私たちも、テロをなくすための活動に日本も協力すべきだと考える。インド洋での給油も選択肢のひとつかもしれない。これを頭から『違憲』と決めつける小沢民主党代表の論法は乱暴にすぎる」との社説を出して給油継続に賛成しているからだ。今朝の社説では「対アフガン戦略、抜本的な見直しの時だ」と総論を書いて、はぐらかしたうえで、給油は「民生を主体とする貢献策について、オバマ氏に十分説明すべきだ」とぼかしながらも、中止を支持している。苦肉の策であろう。
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