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2009-10-01 07:51

参院選挙で賭に出た“天才?”小沢

杉浦 正章  政治評論家
 「天才は考えることが違う」と民主党幹事長・小沢一郎の参院選向け選挙戦術に、党内で賞賛の声が上がっているそうだ。改選数2以上の複数区に候補者を2人立てるという構想だ。時世時節で小沢も「天才」と言われるようになったかということだが、この発想は小沢オリジナルではない。田中角栄のものだ。田中は衆参両院の選挙で自民党に勢いがあるときは党内での競り合いを重視した。競り合いで野党を蹴散らすのである。288議席を獲得した69年の沖縄返還選挙や参院選挙でも複数候補の発想はあったし、実行に移した。小沢は新人教育で有権者とのスキンシップをたたき込んでいるが、田中の教育方針そのままだ。小沢が「天才」なのではなく「天才田中」の教育を実践しているに過ぎない。この「小沢始動」の政治的意義は、政治決戦となる9か月後の参院選への火ぶたを切って落としたということだ。

 2人擁立の方針は、いうまでもなく民主党による衆参完全支配の発想が小沢にあることだ。参院の過半数121議席に9人たりない状況を打破し、参院でも過半数を獲得する。どうしようもない国民新党や社民党の閣僚を入れた連立など必要ない体制を作りたいのだ。小沢は「参院で二人立てるのは、自民党がそうやって強くなってきたからだ」と漏らしている。しかし、2人区での2人の擁立は「共倒れ」の危険性と背中合わせだ。小沢の方針には本人もまだ気づいていない大きな落とし穴が待ち構えている。それは小沢の判断の根底に衆院308議席の「風」が来年夏まで継続して吹くとの読みがあることだ。果たして風は吹き続けるだろうか。

 筆者はとても風がつづかないとみる。まず新聞が早くも“浮かれ政権”に水をかけ始めた。まず毎日新聞が30日、民主党議員が政治活動費にキャバクラなどへの支払いを計上していた問題をすっぱ抜いた。負けじとばかり朝日が1日、首相・鳩山由紀夫の政治団体が母所有のビルに格安で入居、政治資金収支報告に記載していないことを一面トップで暴露。鳴りをひそめていた鳩山虚偽献金問題も発表された政治資金収支報告書で8割がうそであることが判明。国会論戦では鳩山の個人献金問題、小沢の「西松疑惑」を自民党が追及するだろう。鳩山が説明しきれるかという問題がある。とても居酒屋で酔っぱらって「宇宙人です」などと悦にいっていられる状況ではなくなりつつある。今後は野党当時に見逃されてきたスキャンダルが次々に出るだろう。

 それよりも重要な構造的な問題もある。「マニフェスト教条主義路線」の結果、民意が離反し始めていることだ。その象徴がCO2の25%削減。産業界は「工場閉鎖するとか生産縮小を考えざるを得ない」(日本鉄鋼連盟会長・宗岡正二)と悲鳴を上げている。八ッ場ダム建設中止も1都5県の自治体と住民の反発を招いた。開いた口がふさがらないような「平成の徳政令」で、銀行業界が離反している。財務相の円高誘導発言も絡んで、主要国の株価が軒並み年初来高値を見せているのに、日本だけが一人負けの低迷だ。まるでこれらの施策は後期高齢者医療制度の大失政で、自民党票が逃げたのとそっくりである。

 したがって衆院選挙の勢いを前提にした選挙戦術が成り立つ可能性は、少ないと見るべきだろう。逆に背水の陣の自民党にとっては参院選が最終決戦の場になる。まだ同党幹部は気づいていないが、公明党と一緒に過半数を獲得できれば“ねじれ”の実現だ。衆参の“ねじれ”による“いじめ”で安倍晋三以来の政権がことごとく窮地に陥ったのである。この逆をいくことが出来れば、政権を解散に追い込むことも夢ではない。敗戦ぼけの自民党が目覚めて、そこに向けて必至の巻き返しを図れるかが政局のポイントとなる。
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